弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 小さいまる

「あれ?奏ちゃん?」

IH初日。王者である箱根学園のレギュラーは毎年のことながら取材が多い。それは今年も例外ではなく、主将を務める福富と副主将の東堂は代表して今現在受けている。
その間時間がある他メンバーは時間さえ守れば比較的自由にしていいということで、新開と荒北はぐるりと会場を見ていた、その時新開は見覚えのある子供を見つけた。

「隼人くん!」
「なんだこのガキ、新開の知り合いかぁ?」
「寿一の妹だよ。久しぶりだね、元気だった?」
「うん。今日ね、お兄ちゃんと隼人くんの応援しにきたんだよ!」
「……え、福ちゃんの妹!?」

小学生くらいの女の子。一般的に言うなら「可愛らしい子」とかそんな表現が似合う。
新開とその子の身長の差は大きいが、まあ年相応の身長といえばそうかもしれない。荒北が何に驚いたのかと言えば、その顔のつくりだろう。新開の言う福富の妹ならば、似ている箇所があるはずだが、似ているところがまず見えない。

「隼人くん…?」
「ああ、奏ちゃん。荒北靖友って言って、同じメンバーなんだ。それで寿一のアシストしてるんだ」
「福富奏です。お兄ちゃんがお世話になってます!」
「……しっかりしてんネェ…荒北靖友だよ、奏ちゃん」
「顔は恐いけど、良い奴だから大丈夫だよ」
「っせ!」

ペコっと擬音が入りそうなくらいの可愛らしいお辞儀付だ。
この会場に来ている問うことは応援参加だろうし、それに小学生の応援には保護者が付添うのが規則だったはずだ。そう思った新開が「一人?」と聞くと「お母さんといっしょ」と答えが返ってきた。
ついでだと奏に案内してもらい、福富の母に挨拶をする。
すると福富の母から「よかったら奏を寿一に会わせてもらえない?この子寿一に会いたいって」とお願いされたので新開は快く引き受け、奏の手を繋いで一緒に向かう。

「奏ちゃん、一人もで平気?」
「隼人くんがいるから平気!それに迷ったら携帯あるから大丈夫だよ」
「ヒュウ!奏ちゃんもう携帯持ってるんだ。寿一は取材受けてたから…もうそろそろ終わるかな?」
「会える?」
「会っちゃう?」
「会っちゃう!」

きゃあ。と楽しそうに声をあげるが、主将の家族でも部員ではない。それにいいのかよ、と思った荒北が小さく新開に声を掛ける。

「大丈夫さ、寿一奏ちゃん大好きだから怒ったりしないよ」
「ふーん?」

きゃあきゃあと楽しげに新開と手を繋ぎ、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と言う妹は実に可愛い。荒北にも妹はいるが齢はこれほど離れていないし、どちらかと言えば憎まれ口の方が多い。

「今日の一番はお兄ちゃんかな」
「寿一に決まりだよ」
「ステージに上がるよね!写真撮るの」
「終わってから寿一と一緒に写真撮ってあげようか?」
「本当?やったあ」
「奏ちゃんお兄ちゃん子なんだネェ」
「うん!」

しばらくと言っても距離で言えばそんなにはなく、箱学の控えに戻ると奏の目的である兄の福富寿一が副主将である東堂と話をしていた。
それを外からうかがい、話が落ち着くのを待ち、そんなことをしていると視線に気づいた福富が不思議そうに頭を傾げる。
どうやら気づいたと思った新開は大きな体に見合わない仕草で福富を手招く。

「どうした新開」
「ふっふー。寿一に可愛いお客さんだぞ」
「客…?」
「なんだフク、彼女か?それともファンクラブか?」
「まあ可愛いファンクラブだよ」
「お兄ちゃん!」

新開の陰に隠れていた奏が顔を覗かせている。
それに一番驚いたのは兄である福富だろう。一緒に寄ってきた東堂は「可愛らしい妹だな!」と笑っている。
当の奏と言えば、久しぶりに兄に会えてうれしそうにしている。春休みやGWがあると言っても、部活レギュラーとなれば練習を休むわけにもいかないので里帰りはあまりしていないのだ。

「奏…どうして新開と荒北と」
「あのね、あっちで隼人くんとあーきたさんと会って、」
「あーきた…ああ、荒北か」
「オレ達とデートがてら、お兄ちゃんに会おうかってね」
「奏ちゃん、あーきたじゃなくて、ア、ラ、キ、タ」
「あ!ら!き!た!さん」
「そ」

おいで。と福富が奏を招くと奏は喜んで福富のそばに行き、ギュッと抱き着いた。いっても子供のハグなので見ている方が微笑ましいと頬を緩める。
鉄仮面と荒北に最初言われていた福富だが、自分の妹は可愛い存在なのか兄の顔をして可愛がっている。

「今日ね、お母さんも来てるの」
「そうか」
「お兄ちゃんの表彰写真撮るからね!あと一番も!」
「ああ」
「あとね、隼人くんに写真撮ってもらう約束したんだよ」
「そうか、じゃあオレはミニブーケを奏にやろう」
「本当!?やったぁ!」

話し合いが始まるから奏はそろそろ戻れ。一人で大丈夫か?と会話を一通り終わらせてから奏に帰る様に促す。奏は駄々をこねるでもなく素直に「うん、一人で平気。お兄ちゃん頑張ってね!」と元気よく手を振って母親がいるところへ戻って行った。

「フクの妹さんは可愛らしいな」
「ああ」
「何て言っても、寿一が大好きって言うのが可愛いよな」
「ああ」
「似てないよネ、あの子と福ちゃん」
「ああ」
「…寿一、奏ちゃんに会えてよかったな」
「……ああ」

嬉しそうな顔というより、嬉しそうなオーラが漂う主将に周りがレア感を募らせた。



prevnext