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 新開は外、福富は内

「今日は節分だぞ!」
「新開くんに豆をぶつけて福富くんを招き入れればいいの?」

ホクホクとした上機嫌で豆の入った桝を持ち、奏が部誌を書いていると話しかけてきた新開。

「お、それ良いネェ朱堂ちゃん」
「どこが!一緒に豆まきしようって話だろ!」
「だって、掛け声は『鬼は外、福は内』でしょ?直線の鬼こと新開さん」
「それなら新開は外で福ちゃんは内だろうナァ」

なんたって福ちゃんの名前には福に富に寿がついてるからな。と笑う荒北。
奏の知る限りでもそこまでおめでたい漢字が使われている名前を持つ者は彼くらいだ。
それに対してさすがに名前に鬼が付く人は知らない。いても苗字につくくらいだ。
そんな人がいて、本人が乗り気ならば鬼役もいいだろうが、この場合は直線の鬼という異名がある新開が言えば適任だろうという話だ。

「でもさ、それ寮での話でしょ?私寮生じゃないし、男子じゃないし」
「部室でもいいだろ?」
「掃除終わったのに?散らかすの?」
「また掃除すればいいさ」
「えー」
「えーって」
「寮でやって」
「朱堂のノリが悪い!」
「それはきっと鬼のせいだ!朱堂の鬼を追い出せ隼人!!」
「尽八…!おうよ!」

いきなり入って来た東堂の言葉に新開は目を輝かせて頷き、そして豆を握って奏に向かい投げつける。そう、ふんわり投げるのではなく、力一杯投げつけてきたのだ。

「いったー!?」
「朱堂ちゃん!?おい、てめ新開!!」
「荒北にはすぐ切れる鬼だな、行け隼人!」
「鬼は外!優しい靖友になーれ!」
「いってぇ!!」

ははははは!と楽しそうにしている新開と東堂とは反対に、奏と荒北は不快でしかない。むしろブチ切れ寸前の荒北を抑えるように上着の裾をひっぱり、落ち着くようにと行動で押さえている。

「ここで怒ってもあっちの思い通りになっちゃう」
「でもよぉ…!」
「こうなったら福富くん。福富くんが来たら即刻こっちの仲間に引き入れよう」
「…っくそ」

二人には悪気がないだけ悪質だ。
奏は福富という救世主が来るのを待つ間に部誌を書き上げるべく二人の無視を決め込み、荒北はその手伝いをしつつ「朱堂ちゃんの邪魔すんじゃネェ」と睨みを利かせた。

「……どうしてこんなに豆が散らかっている」
「福富くん!ちょっと聞いてよ。新開くんと東堂くんがいきなり豆ぶつけてきて私と荒北くんは凄い被害を受けたの」
「そうだぜ福ちゃん!朱堂ちゃんは部誌書いていただけなのにいきなりだぜ!?仕事していただけなのにヨォ!!」
「かばった荒北くんまで…豆をぶつけられるし……節分だからって…ひどいよ、そんなのって…ただのイジメだよ!」

少々オーバーな表現で演技だが、あながち間違ってはいない。
奏はこれでもかと悲壮感を漂わせ、荒北はどんなに奏が可哀想だったかを語って非がない被害者なのかを訴える。

「新開、東堂…」
「だ、だって今日は節分じゃないか…寿一」
「そ、そうだぞフク…大体あの二人のノリが悪いんだ…」
「朱堂は部誌を書いていた。違うのか」
「…書いていた」
「でも荒北が」
「邪魔をしたから荒北は怒ったんだと思うのだが」

言われてしまえばぐうの音も出ないらしい。
よよよよよ。と奏が泣く仕草をしつつ叱られている二人を伺い見れば、バツの悪そうな顔をしている。

「節分を楽しみたい気持ちはわかる」

え、わかるの?と荒北は頭をあげ、同じように奏も反応する。

「でも仕事を邪魔するのは駄目だ。朱堂だって部員で朱堂のおかげでスムーズに部活が出来ている」
「ごめんな、朱堂」
「すまん朱堂」
「おい!オレにも謝れよ!!」
「靖友…ドンマイ!」
「気にするな荒北」
「朱堂、二人もこう謝っていることだ、許してやってくれ」
「う…うん」

荒北くんへの謝罪は…。と小さい声で呟いたが、それは荒北の耳にしか届かず、他の三人にはスルーされてしまった。ギリギリと歯ぎしりが聞こえそうなくらい食いしばり、奏がハラハラするくらいには荒北はご立腹だ。

「それに」
「…それに?」
「オレもしたいのに先に始めるな」

この時思った。
「ああ…この部活駄目だ終わってる」と奏と荒北はもう怒る気力さえなくなった。



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