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 パワー消費も面倒

その日の昼休憩は総北も箱学も同じ時間だったらしく、鳴子と一緒に自販機で飲み物を見ていると箱学の生徒が奏に腕相撲を申し込んできた。どうやら今朝の勝負で誰も勝てずにいたのが箱学としては許せなかったらしい。

「箱学1年銅橋」
「そ、総北、1年朱堂です」
「昨日のデカ女か」
「つうことは、お前か朱堂さんにんな事言うた奴は!」

ムッキー!と奏の横で地団駄を踏むように怒る鳴子。
当の奏にしてみれば、朝の時点でやけ食いという発散をしてしまったばかりに力があり余り、そのせいで自分VS男子(自校他校問わず)になってしまったわけだが。

「お前のせいで男の威プライドガタガタや!どうしてくれるんや自分!」
「あ?」
「こちとら女子の朱堂さんに腕相撲負けてプライドズタボロや言うとんのや!!」
「負ける方が悪ィんだよ」
「っカー!んなら箱学の奴らも悪いんか?あ?」
「な、鳴子くん…落ち着いて」

奏が言ったところでどうにもならないが、他校の生徒に悪意を持ってケンカを吹っ掛けるのはよくない。ただでさえ鳴子は髪が派手と言う事もあり、教師から厳しい目で見られている。友達になってしまえば、全くそんなことはなく、とても思いやりのある人物なのだが少々気が短いのがタマにキズ。

「お前、泉田さんとの勝負に勝ったんだってな」
「泉田…さん?」
「箱学のマツゲくんや。アブアブ言うとる」
「ああ、あの鍛えてる人。凄く丁寧にあいさつしてくれた人、泉田さんって言うんだ」
「そこまで覚えてて名前覚えてねえのかよ」
「あの後沢山勝負したので…」

確か二番目に勝負した人。と奏が思い出す。凄く綺麗に鍛えてあってワクワクして勝負したが、思っていた以上にあっさり勝負がついてしまって正直がっかりしたのだ。その次の人も鍛えているが思ったほど奏の発散にはならなかった。やはり自転車に乗るために鍛えているとはいえ、そいういう鍛え方ではない。

「今度はオレと勝負しろ」
「え!」
「なんだ」
「あの…実は、朝はヤケ食いして…その発散で…今は、今朝ほどの力、でませんけど…あの」
「え、そうなん!?さっきオッサンともう一回勝負して楽勝やったで!?」
「ちょっと苦戦してたんだけど…な」

嘘ん!と叫ぶ鳴子に奏は恥ずかしそうに背中を丸める。奏の田所の体格の差は身長というより見た目の筋肉量の差だろう。どう見ても田所の方が大きく、腕だって太い。

「じゃあ食えばいいのか。これやるから食え、そんで勝負しろ」
「……これ、なんですか?」
「パワーバーやで。朱堂さん知らんの?手伝いしとるやろ」
「箱に入ってる中身?」
「いいから食えよ」

一袋奏に差し出して「食べろ」と押し付けてくる。困って奏が受け取ってから鳴子を見ると「こうなったら箱学全員抜きや!頑張り朱堂さん!」と応援している。
奏は「まあいいか」と袋を破ってそれを食べる。

「パサパサする…」
「ほれ、お茶。これ飲ぃ」
「どっちがマネージャーわからねぇな」
「阿保、朱堂さんマネージャーちゃうわ。ヘルプじゃ」
「…ん、ごちそうさまでした。えっと、銅橋…さん?」
「同じ1年だろ」
「え、あ…じゃあ銅橋くん、どこで勝負しよう」
「今朝のあそこでいいだろ。同じ条件じゃなきゃ意味がねぇ」

奏は鳴子に「皆の所先戻ってて」と言えば、「それはできへん。朱堂さん一人じゃ危ないからな」とニカッと笑う。
奏は何が危ないんだろうと思いながら銅橋と今朝箱学の生徒と勝負したテーブルの所に行ってスタンバイする。

「鳴子くん、レフェリーね」
「まかせとき!コイツ倒して箱学制覇やで!」
「させるかよ!女なんかに負けてたまるか」
「私も負けません!」

お互いに肘をつき、手を握る。
銅橋からすればその小さい手にあの泉田を倒しただけの力があるとは思えない。言えば女の手と腕だ。鍛えている様子もない、丸みを帯びたなだらかな腕。それにつながる体を見ても、とても男と勝負して勝つ様な身体つきではない。

「いっくでー!レディー…ファイ!!」
「ンガァ!?」
「銅橋くん強いね」
「お前凄いわ…朱堂さんのそれ耐えられるんか…」

掛け声で一気に形勢が決まる。
銅橋の手の方に角度で言えば20°あと少しで手の甲がテーブルにつく。
まず今までの事を言えば、その掛け声と同時に手の甲がテーブルにつき、呆気ない勝負だった。しかしどうだろう、今回の銅橋はそれを耐えたのだ。

「ックソ!!この馬鹿力…!!」
「行け!朱堂さんやってしまい!!」

気持ちきつそうな顔だが、銅橋に比べれば涼しそうな顔をしている。それとは反対に銅橋は歯を食いしばり、ギギギギと音がしそうな顔だ。額には暑いだけではない汗が流れ、青筋が走る。

「ぅんしょっと」
「……っあー!!!負けた…」
「勝った!」
「ぅおっしゃあ!!」

ベチン。今朝の誰とも違う音がして銅橋の手の甲がテーブルについた。
すなわち奏の勝ちであり、銅橋が負けたと言う事だ。
それに鳴子は素直に喜び、奏は「銅橋くん1番強かったよ」と笑っている。

「…う、うそだろ…」
「どや!朱堂さん強いやろ!」
「お前関係ねぇだろ!!」
「関係あるわ、人んとこの学校の生徒に暴言吐いてよう言うわ」
「お前はコイツのカレシか何かか!」
「ちゃ、ちゃうわ!!友達や!友達!!」
「あれ?バッシー…と奏ちゃんだ」

二人がギャアギャア騒いでいると奏と昔馴染みというか、友人の葦木場拓斗がヒョコっと顔を出して、おーいと手を振っている。

「あ、拓斗くん」
「なになに?バッシーと勝負したの?バッシー強いからいくら奏ちゃんでも勝てないよ!バッシーが負けたらオレ…奏ちゃんを肩車する!」
「………銅橋くん、勝負、する?」
「しねぇよ!!そしたらお前、今度は手抜くだろうが!!」
「そうだよ奏ちゃん!勝負で手を抜くのは良くないよ!!」
「つうか朱堂さん、もう勝っとるがな」
「え?」
「お宅のそちらさんとはもう勝負ついとるで。朱堂さんの勝ちや」

えええー!!バッシー奏ちゃんに負けちゃったの!!??という葦木場の声が響き、一瞬で奏が銅橋に勝ったとう話が全体に知れ渡った。



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