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 ぺたんこちゃん

「あ、それプライズのストラップヒメ!」

優勝を真波くんと争った総北のオノダくんが私の腰を指差して大きな声をあげる。ヒメという単語で思い当たるのは携帯のストラップ。私の携帯にはラブ☆ヒメのストラップが付いている。

「え、ああ…これ?」
「あ、あの、ラブ☆ヒメ、お好きなんですかっ」
「ヒメ可愛いよね」
「はい!」
「朱堂、それより真波を知らないか。メガネくんが会いたいと言って来てな」
「控えにいると思うけど。呼んでこよう?」
「ああ頼む」

東堂くんに頼まれるままに私は真波くんを見つけ出し、「東堂くんが呼んでるから」と二人の元に連れてきた。その時の顔を見たわけではないが、真波くんの表情はきっと硬い。ゴールした時の真波くんの顔を私はまだ忘れていないし、汗だけではないなにかが胸を濡らしていた。
私は二人の会話を聞いているほど暇じゃなかったし、後輩達に裏方の指示もあれば選手として参加したメンバーとの連絡や監督との連絡を取り合って撤収作業をしなくてはならない。

「朱堂さん、オレ戻りますね…」
「あ、うん…」
「なんだ真波のヤツ…」
「疲れたんだよ、真波くん」
「あ、あの」
「朱堂、メガネくんが呼んでるぞ」
「え、あ、私?」

早足で行く真波くんを見送っていると、私じゃないだろうと思っていた問い掛けは私だったらしい。東堂くんが名字をよんでくれてようやく気付いた。

「あの、ラブ☆ヒメお好きなんですかっ」
「え、あー、うん。好きだよ」
「それ、プライズ品ですよね!」
「近所の子に貰ったの」
「そうなんですか?ボクそれ取れなくて…」
「…これ、私付けちゃってたけど、よければ…どう?」
「…えっ!」
「付けたの最近だから、まだそんなに汚れてないと思うけど」
「えっ、えっ!?」
「小野田くんが嫌じゃなければ、どうぞ」
「でも…」
「その子にはヒメが大好きなお友達にプレゼントしたっていっておくから」
「あ、ありがとうございます!」

携帯に付いていたストラップを外して小野田くんに手渡す。 確かにラブ☆ヒメは好きだけど、このストラップは携帯に付けるのがなくてなんとなく付けただけだったし、そのストラップが欲しいというなら私は特に未練もないのでどうぞと渡してなにも問題はない。
「大切にします!ありがとうございます朱堂さん!」と深々と頭を下げた小野田くんに私だけではなく東堂くんも驚いたみたいで二人で顔を見合わせて笑ってしまった。




そして東京に進学して少し。もう小野田くんという存在は去年のインターハイの優勝者という認識でしかなくなっていた。

「あ、あの…朱堂、さん?」
「へ?」
「あ、あの、朱堂さん…ですよ、ね?」
「え、あ!小野田くん!?」

まさかこんな、しかも映画館で出会すなんて誰が思っていただろう。しかも一緒にいるのは今泉…なんとかくんだと思われる。ちょっと訝しげな顔で私を見ているのは気のせいだと思いたい。

「朱堂さんも映画ですか?」
「う、うん…小野田くんも?」
「はい。今泉くんと」
「アレを観るんです」
「あ、一緒だ。仲間だね」
「朱堂さん東京の大学ですか?」
「うん。小野田くんと…今泉くんは千葉だよね、総北。なんでここの映画館にいるの?」
「ふふふ!それは勿論映画館別特典のためですよ!」

そうだ。この映画は映画館別に数種類の特典を用意していて、しかもその特典に付いている台紙の応募マークを集めて送るとまた特典が貰えるというアコギな事をしている。
インターハイでラブ☆ヒメのストラップをあげた小野田くんはわかるけど、そうは見えない今泉くんが意外。こういうアニメ映画を観そうな雰囲気ではない。

「応募マーク集めるの?」
「流石にそこまでは…今泉くんと相談して、ここの特典が一番良いよねってことで」
「そこまで私も一緒だ」
「凄い偶然ですね!席はどこですか?」

チケットを見せると、なんとひとつ飛ばして同じ列。ひとつ飛ばしだねーなんて話していると今泉くんが「…その間、オレ」ということで益々驚いた。

「…なんか、待ち合わせて観に来たみたいだね」
「そう、ですね」
「今泉くんもアニメ好きなの?」
「え、あ…はい」
「なんか意外。小野田くんの影響?」
「え…まあ、はい」

もしかして、あんまり今泉くんには話しかけない方がいいんだろうか。今までの部活で男子に囲まれた生活で、しかも真波くん達と同い年だと思うと、どうも先輩風を吹かせてしまう。
しかもライバル…といっていいのかわからないけど、戦った学校の元マネージャーということもあって嫌なのかもしれない。そしてまさかの映画館で同じ映画、しかもアニメ。私が同じ立場だったら良い印象は受けない、かもしれない。

「ご、ごめんね。ほとんど初対面で…小野田くん、今泉くん」
「え?そんな事ないですよ!ね、今泉くん!」
「え、ああ…はい」
「ボク、アニメ好きな人があんまり周りにいなくて…お話出来る人がいると思うと嬉しくて!それに、朱堂さんからもらったストラップもありますよ!そういえば朱堂さんはこのテレビシリーズは観ましたか!?」
「勿論全部観たよ!劇場版はディスクを買いたいなーって思ってるんだ。特典次第では初回特典を狙う」
「テレビシリーズのディスクには映像特典ありますよ!」
「レンタルしなくっちゃ!」
「今泉くんはテレビシリーズ観た?」
「…まあ、はい」
「ボクが貸しました!」
「ということは特典も観てるのか…」
「……結構、おすすめです」

そのあとは偶然隣同士の座席ということもあり、一緒に映画を鑑賞し、一緒に昼食をとりながら映画のあのシーンがどうだとか、このシーンはあれだとかとお互いに感想を言い合ったりしていた。

「あ、やばい、もうこんな時間だ」
「何か用事ですか?」
「うん、レポート作成があって」
「…大変なんですか?」
「うーん、ちょっとね。今日は私まで一緒にお昼まで。ありがとう小野田くん、今泉くん」
「あ、あの!よければ…アドレス…め、迷惑ですよね…すみません…」
「そんなことないよ!交換しよう!!今泉くんも、嫌でなければ…ど、どう…かな」

そんなこんなで無事に二人とアドレス交換をした。
よし、これは福富くんと新開くんに自慢して、あとで東堂くんと荒北くんにはメールで自慢しよう。



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