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 逃走うさぎ

「新開くん、新開くん」
「んー?どうした朱堂」
「ウサ吉くん、逃走してた」
「え!?」
「から、捕まえてきたよ」

驚いて振り返ると、朱堂に大人しく抱っこされているウサ吉。そのウサ吉は暴れるでもなく、大人しく朱堂に抱っこされていて、本当は逃げたんじゃなくて朱堂が連れてきたんじゃないのかと思えるほどにイイ子にしている。

「………あ、りがとう」
「ウサ吉くん、もふもふだね」
「可愛いだろ!」
「うん、可愛い」

朱堂に渡されると、ウサ吉は耳をピクンと動かして目をパチパチさせている。意外と朱堂に抱っこされて居心地がよかったみたいだ。
朱堂も「可愛いね」と言いながらウサ吉の頭を撫でている。

「鍵し忘れての?」
「いや…そんなことないと思うんだけどな…」
「確認した方がいいんじゃない?野良猫とかに狙われたら可哀想だよ」

確かに。
鍵をし忘れた記憶はないけど、戸が壊れてしまっていると言う事もある。部活も大切だけどウサ吉も大切だ。寿一に言って練習を少し抜けさせてもらおう。

「朱堂、ちょっとウサ吉見てて」
「?」
「寿一に言って部活ちょっと抜けるから」
「それなら私が福富くんに伝えるけど…」
「自分の事だし、それ位はやるさ」

朱堂にまたウサ吉を戻す。するとウサ吉は鼻をヒクヒクさせて、ちょっとびっくりしているみたいに見えた。ウサ吉の頭を撫でて、「ちょっと行ってくるな」と朱堂に頼んで寿一のところに行く。たぶん今は監督のところに行ってるはずだ。

「寿一」
「どうした新開。監督に用事か?」
「いや、寿一に。実はウサ吉が逃げ出して」
「それは大変だ。早く探さないと」
「それはもう朱堂が捕まえてくれたんだ。ただ、鍵をし忘れた記憶がなくてさ。もしかしたら小屋のどこかが壊れてるのかもしれないから、ちょっと部活抜けるな」
「そいうことか、わかった。遅くなるなよ」

事情を話せば寿一はすんなり了解してくれた。
急いで朱堂のところに戻って、ウサ吉と遊んでいる朱堂に声をかける。

「ありがとな、朱堂。よかったな、ウサ吉。遊んでもらって」
「さっきまで荒北くんも居たんだけどね」
「靖友?」
「うん。ナデナデしてもらったもんね、ウサ吉くん」
「部活始めたんだ」
「黒田くんに『荒北さんお願いします!』って」

じゃあ、私も部活に戻るね。と朱堂がバイバイとウサ吉の頭を撫でる。
それでウサ吉を抱っこしてウサギ小屋に向かおうとすると、ウサ吉はオレの手をすり抜けて朱堂の後ろを追いかけるようにピョコピョコと歩き出す。

「……朱堂、一緒にウサギ小屋行かない?」
「え?…あ、あれ?ウサ吉くん?」
「なんかウサ吉、朱堂とまだ一緒に居たいみたい」
「遊び足りないのかな?でもごめんね、部活の仕事が今日多いから、また今度ね」

今度はさっきよりも丁寧にウサ吉の頭を撫でてから、今度は朱堂が抱っこする。そしてオレに「ちゃんと新開くんの言う事聞かないと駄目だよ、ウサ吉くん」と帰ってきた。
いつだったか靖友が「朱堂ちゃんの後ろうろちょろしてる猫がいる」と言っていたけど、多分ウサ吉もそれに近いんじゃないかと思った。


※ウサ吉はメスらしいですが、奏は性別を知らないので「ウサ吉くん」と呼んでいます。



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