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 マネちゃんも○○

※○○でマネちゃんが天統ではなく荒北と同じ妖(狼)だったら


「は?朱堂ちゃんオレと同種なんだから当たり前だろぉ」

なんとなく、それこそ「荒北は朱堂と仲が良いな」と新開は言っただけだった。
べつにどうってことのない、本当の雑談。
荒北靖友は狼の妖の血筋。能力を出せばそれに近い形になるし、嗅覚も脚力も、そして人間を遥かに凌駕する力を発揮する。

「朱堂ちゃーん、ちょっとぉ!」
「朱堂呼んでどうするんだ?」
「おめぇが疑ってるから証明してやんだよぉ」

定期考査前と言う事で、部活は全部停止している。そうなると強豪の部活と言えど例外はなく休み。
朝練も部活もない、言えば帰宅部の様な生活。自転車が恋しい気もするが、勉強をおろそかにすることはできない。

「なに?わからないところでもあるの?数学?化学?歴史?」
「違うよぉ」

荒北が小さく吠えると、奏も真似をして吠え返す。

「んじゃ、それで」
「うん、いいよ。ちゃんと勉強もしないとだよ」
「わかってるって」
「……ん?」
「あとでメールして教えてやるよ新開」

その吠え返しで奏が荒北の同種というのはなんとなくわかった。しかしその会話の内容までは鬼である新開にはわからない。頭を傾げている新開に奏は「新開くんも夜更かししないようにね」と一言言って仲の良い女子のところへ行ってしまった。
そしてひとつの授業が終わるころ、携帯がブルブルと震えて画面を見ると「荒北靖友」と表示されている。メールを見れば『今夜9:00にいつもの場所。久しぶりに発散するぞ』と書いてある。どうやらその約束をさっきしていたらしい。手早く「OK」と入れて返信した。

そして約束の場所。
そこは箱根の山のひとつ。妖である者にとってはある種のパワースポットだ。怪我をすれば癒しの場になる、いえば己の力を最大限に回復してくれるという場所なのだ。

「朱堂、来るのか?」
「約束してから大丈夫ダヨ。朱堂ちゃんオレより高位だから結界頼んだしィ」
「え、朱堂結界も張れんの?」

人避けの結界は高位の妖、しかも山神である東堂クラスではないと難しい。小さいものならば修行すれば小さいものならできなくもないが、大きいものとなると東堂がやっとできる程度。いつも暴れるとなると東堂に頼んで張ってもらっていた。

「お、来たぜ」
「え…」

月夜の空から何かが降ってきた。
見れば奏で頭には荒北と同じような耳、後ろには薄暗くてもわかるほど艶やかな尾が見える。

「ごめん、遅れちゃったかな」
「大丈夫だよォ。勉強あんのにごめんねェ、新開が朱堂ちゃん疑っててさぁ」
「疑ってないぞ!」
「なにを?」
「オレと一緒の狼かって事。朱堂ちゃんの恰好見たらわかったと思うけどォ」

同じように荒北も頭に耳が生え、そして奏とは見劣りする尾がなびいている。
並んでみると、その差が小さいようで大きく感じる。奏は女らしくいろんなところが小ぶりだし、荒北は男らしい。

「新開くんは鬼なんだっけ」
「そうそう。ロードでその名前が付くとは思ってなかったけどな」
「私鬼の友達いなかったから、ちょっと新鮮」
「つうか、普通こんなに集まらねえヨ?仲が良い奴らで純粋な人間なの福ちゃんくらいだろ」

確かに。私ここ来る前で妖の子は二人とかだったし。と奏は言う。
箱根という土地柄もあるのかもしれない。力のある土地に人間が集まるように、妖も集まりやすいのだ。

「でも本当仲間が多いよね。黒田くんも狼だし」
「黒田も?」
「うん」
「アイツ朱堂ちゃんに懐きすぎなんだよ。アレ、奏ちゃんの事狙ってるぜ」
「あははは。でもそれ普通じゃない?少ない同族の異性だもん」

箱根の土地で見ると、同族はまあまあ多い。それはどの種に対しても。しかし奏から見ると、今まで住んでいたところでは同種はおらず、自分の父親だけが同種だった。ちなみに母親は天統姫であり、その影響で奏は高い能力を授かっている。

「そっか、朱堂は越してきたから仲間自体が珍しいのか」
「うん。前のところじゃ人間だらけの生活だったし」
「んじゃ、靖友も婿候補だったのか?」
「………それ、今聞いちゃう?」

奏は最初荒北にいい印象はない。それは多分同学年の部員ならば大半が知っている。そもそも奏は自転車競技部にまったくと言っていいほど馴染んでいなかったし、何より部員と会話することさえ苦手そうにしていた。そこに人相も悪ければ行いもいいとは言い難い荒北がやってきてすぐに仲良くなれるはずもない。

「朱堂ちゃん困らせんじゃネェよ新開」
「うん、そうだな。悪かった朱堂」
「つうか、女の朱堂が仲良くするかどうかの決定権持ってんだよ」
「え?」
「朱堂ちゃんはオレより高位で上位だかんナ」
「高位で上位?」
「私のお母さんが天統でね。それで能力が生まれつき高くて、それで高位。上位なのは能力が高いから必然的に順位で行くと上になるってわけ。でも、優劣を決める勝負で私が荒北くんに負けると私は高位だけど下位になっちゃうの。その場合は私と荒北くんとの関係であって、そこに黒田くんが入っても意味はないって言うか」

要は「高位・低位」というのは能力的なもの。「上位・下位」は力関係とうこと。と荒北が完結に言えば奏も「それそれ」と笑っている。
見た目は荒北の方が強そうだが、その仲間同士でわかる力の差で荒北は奏に挑むことなく奏と友好的にしているということらしい。奏が荒北を嫌っていたら部活はしにくいし、奏もそこまで子供じゃないと言う事なのだろうか。

「大体天統の子ってだけでケンカ売る気もしねぇよ」
「強い子供が生まれるっていう、あれか」
「そうそう。ここ来たときは結構声かけられたっけ…荒北くんには色々助けてもらったんだよね…」
「朱堂ちゃん自覚なさすぎだったしナ」
「番犬か」
「女守るのが男の役目だろ」
「荒北くん格好いい…!」

これは恋が始まりそうだな!とバキュンポーズで新開が言えば、荒北は「うっせ!」といつもの様に返した。



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