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 力自慢は秘密で

「朱堂は凄いな、力持ちで」
「は…はは…」
「どうしたんだ?」
「車に乗る時に抱えてもらったんだ。オレと鳴子」

こんな感じで、横抱きで。と金城先輩はジェスチャーをしてその様子を語る。
その場には車椅子がなく、奏が運んだという事だ。それにはその場にいた箱学の選手でさえ驚いていた。確かに奏は身長が高いが女であり、鍛えているようには到底見えない。細身ではあるが、痩せているという見た目でもない。なのでその様子をみた箱学の筋肉質な選手には穴が開くほど見つめられた。

「なんだ、お前ら朱堂に横抱きって冗談にては下手くそだな」
「事実なんだが。なあ鳴子」
「やめてください!あかん…女ん子にお姫様抱っこされたとか…やめてつかぁさいい…」



ということがあってから少し。当人たちの具合もよくなり、合宿が行われると奏も声を掛けられ、「部員だけど部員じゃないし…それにお金…」と言えば「気にしないで奏ちゃん!」と奏の意思など関係ないと言わんばかりに強制参加させられた。

「幹ちゃん、幹ちゃん。あの学校の人達って…」
「箱学だね」
「そうだよね…私立の学校と一緒って凄いね」
「うん。でも、時期的に同じになってもおかしくないから…いい刺激になると良いよね!」
「前向き…」
「それよりも奏ちゃん!お手伝いお願いします」
「は、はい。頑張ります」

それからは一緒に仕事をして、指示されるように道具を運んだり色々する。相手校がいるといっても、合同ではないので顔を合わせるといっても遠くで見かける程度。あちらの人数が多いので見かける回数は多いが、言葉を交わすことはない。
合宿所の色んな配置を覚え、スムーズに仕事を行えるようになった頃。幹に「奏ちゃん、ごめん。ドリンクがないの、買って来て!」と言われて合宿所の人に店の場所を聞いて自転車を借りる。合宿所が近いせいか、ドラッグストアもスポーツ用品店も近いので迷うことなくお使いを済ませて戻った。

「…奏ちゃん?」
「え、拓斗くん!?」
「わあ、本当に奏ちゃんだ!なになに?どうしてここにいるの?あと身長縮んだ?」
「私、友達の手伝いで…えっと、総北の自転車部?の…」
「奏ちゃん総北なんだ…」
「拓斗くんは?」
「箱学だよ」
「箱学なんだ」
「うん」

あと私縮んでないよ。と奏は笑う。
葦木場拓斗。千葉に住んでいた時に母親同士が高校時代の友人で仲が良く、よく互いの家を行き来して遊んでいた。しかし、葦木場が高校に進学すると同時に県外に引っ越すことがきまり、それ以来奏とはあっていなかった。

「じゃあ拓斗くんも自転車のるの?」
「うん。奏ちゃんは?」
「乗るけど、そういうんじゃないかな。本来の部活は家庭科部だし」
「あ、じゃあまたお菓子作ったり?」
「葦木場!お前なにしてんだよ、さっさと練習に…」
「あ、ユキちゃん」

じゃあね。と大きな手を振って奏と別れてユキちゃんと呼んでいた男子のところへ。
あちらはあちらで奏を見て「誰だ?」と言ってる様子。奏は葦木場に小さく手を振って、幹のところへ急いだ。懐かしい友達との会話も名残惜しいが、今は幹にお願いされたことを優先しなければと。

「幹ちゃん、おまたせ。買ってきたよ」
「ありがとう!助かったよ奏ちゃん。それでドリンク作ってもらえるかな」
「うん」

幹にはマネージャーとしてのメインの仕事があるので、ドリンクづくりもマネージャーの仕事だがそこまで手が回らないらしい。そのためのヘルプである奏は急いでドリンク作りに走る。今日は暑いので水分補給は重要で、まだ始まったばかりと言えど油断はできない。
そんな雑用でも部員の健康を守る重要な仕事。奏は幹の手伝いをして合宿1日目が終わった。
その後は夕食と入浴。そして各自の時間で学生らしく勉強の時間となる。
そしてなんと宿まで一緒だった総北と箱学。その宿はそれほど大きいとは言えず、二つの学校の部員で満室となっている。食堂は一カ所で大きなつくりになっていて、食事も二つの学校が一緒。そして風呂も男女に分かれているが、やはり2校共同となっている。
夕食をとる食堂のテレビで「今夜放送!」と大音量でながれる格闘技のCMに奏が小さな声で「あ」ともらした。

「どないしたん」
「え、あ…今日だったと、思って」
「朱堂格闘技好きなのか?意外だな」
「ワイも好きやで!汗臭くて!」
「ボ、ボクはどちらかって言えば苦手かな…」
「応援してる人が、今日出て…どうしよう、部屋にテレビなかったし…」
「録画してこなかったの?」
「……忘れてた」

ロビーに大型テレビがあったよ。と幹が教えてくれるも、あそこは共同なのでそれを見てくれる確率は低いだろう。最悪携帯のワンセグで見るよ。と奏が元気なさげに言うと、周りが気を使ったのか「元気だしぃ、見れんのは残念やけど…な」と鳴子がデザートにあったゼリーを奏のお盆に乗せた。
元気のないまま、幹と一緒に浴場に向かって入浴する。部屋と浴場の間にはロビーがあり、行きは誰もおらず、帰りには奏と久しぶりに再会した葦木場が座ってテレビを眺めている。

「拓斗くん、何見てるの?」
「あ、奏ちゃん。ほら、今日試合の日でしょ?」
「みるの?みるの?私も一緒に見る!幹ちゃん、私ここで見るから、先戻ってて」
「え、ああ…うん。ね、奏ちゃん、お友達?」
「うん。葦木場拓斗くん。ひとつ上で、今箱学なんだって。元は千葉にいたんだよ」
「あ、始まった!」



「って、今奏ちゃんが箱学の人とテレビ見てるよ」
「な、なんやて!?」

総北一年で勉強をしようと集まって、奏はテレビ見るって。と幹が皆に言うと、何よりも騒いだのが鳴子だ。

「やばい、やばいでそれ…」
「どうして?」
「だって箱学やで!?」
「友達なんだろ?いいんじゃないか」
「うっさいスカシ!これはアカン、アカンわ…オッサンに言うてくる!」

バタバタと部屋を飛び出して、三年の部屋に乗り込み、ちょうどいた手嶋と青八木にも幹から聞いた情報を話す。

「ヤバいわ、朱堂さんなにされるかわからん!」
「アシキバ…タクト…」
「鳴子、朱堂さんの友達悪く言うの、よくない」
「せやかて!身長高い朱堂さんよか、ホンマ高い、巨人やで相手!いくら朱堂さんでも危ないわ!」
「別に朱堂が誰と一緒に居ようがいいだろ。なんでそんなに気にすんだ?」
「だって、なんかあったら朱堂さんから菓子貰えへんなるやん!」
「鳴子、お前最低っショ」
「それ、朱堂の前で言うなよ」

よく分からないが、自分と同じに奏の心配するものが居ないと思った鳴子は「ワイ一人で助け行くわ!」とロビーに走る。バタバタとスリッパで床を叩くように走り、テレビの前にいるであろう奏のところに急ぐ。

「あれ?鳴子くんどうしたの?」
「ど、どや、状況は」
「今のところ優勢だよ!でも相手も結構手ごわくて…」
「あ、今入ったよ!」
「え、嘘!あ、あ!そこ、いけ!あー右が甘い!」

二人で白熱している。そこは純粋にその勝負をみて、選手を応援している一ファンの姿。
奏よりも、鳴子から見たら巨人の様なその奏の友達も一緒に応援してる。それを見た鳴子は「た、楽しそうで何よりですわ…ワイ、勉強してくるさかい、なんかあれば遠慮なく来てな…んじゃ」と逃げた。




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