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 降参です

とうとう幹ちゃんに根負けしてしまった私は、兼部という形で自転車競技部のマネージャー…というより、幹ちゃんのヘルプになってしまった。でも基本的には家庭科部なので、家庭科部を優先してね。というのは幹ちゃんの優しさなんだと思いたい。
それより驚いたのが、どうやら自転車競技部の部長さんが家庭科部の部長にまで掛け合ってくれてということ。幹ちゃんとその部長は付き合っているのかな、なんて余計な事を考えてしまった。
自転車部のヘルプなので、当然マネージャーらしいことはしない。本当に手がたらないとか、ちょっとしたことに声を掛けられるくらい。それなら別に部活に入らなくてもいいと思うんだけど…幹ちゃん曰く「いいじゃない、そんな細かい事」と言われてしまった。それからは幹ちゃんと仲良しの橘さんともお友達になり、今では下の名前で話ができるくらいには仲良くなれたと思う。

「朱堂さん今日部活どっちや?」
「今日は家庭科部の方いくから、自転車部の方は行かないよ」
「お!」
「帰りに会えたらあげるね」
「待っとるからな!!」

この会話も毎日の恒例になってる。
お菓子を見つけてからは帰りに私の姿を見かけるたびにお菓子をせびられるようになったけど、「ないよ」と言えば素直に「気ぃつけて帰りや」と言ってさようならをするのもよくあるけど。
ついでに自転車部では私が鳴子くんを餌付けしているという認識らしく、鳴子の飼い主なんて呼ばれることもおたまにある。主に田所先輩にだけど。それに対して鳴子くんが「飼い主やないわ!」と怒っている。
本来の部活の家庭科部は人数が少ない。そして大人しい人ばかりだから自転車部よりも私は落ち着く。自宅はどちらかと言えばいろんな人が小さい頃から出入りがあるし騒がしいので、そっちの方がいいと思う人もいるけど、私は静かな方が好きなものは好きなのだ。
それに人数が少ないので学年問わず仲が良いのも良い所だと思う。

「奏ちゃん、また自転車部の派手な子にあげるの?」
「タイミングがあえばですけどね」
「金城くんが奏ちゃんの部活の件でっていうからビックリしたんだよ」
「私もびっくりしました」

その話は部活内ではネタのひとつ。ついでにいうと、3年生の間では「金城が部活の引き抜きをした」なんて話題になって、話が曲がりに曲がって私が凄い自転車の選手だなんて噂が立ったくらい。残念ながら私はそんな才能はないし、乗っている自転車は大手デパートが展開している安いママチャリ。あとになって知ったことだけど、その噂で私は3年生にチラチラ見られていた不思議がやっと解決したんだけど。

部活という名の製菓が終わった。
いつもの様にお菓子を袋に入れて持って帰る。大抵自転車を引いて校門のところに行くまでの間に鳴子くんに見つかって「菓子やな!」と言われる。
しかし今日はどうもタイミングが合わないらしい。いつも同じくらいのところに差し掛かると声をかけられるけど、今日はそこを過ぎても声をかけられない。
今日のお菓子は家族行きかな。

「…朱堂、さん」
「……えっと、青八木、先輩。こんにちは」
「今帰り?」
「はい。今日は家庭科部の方で」

鳴子くんと同じくらいの身長の青八木先輩。あんまりおしゃべりな人ではなくて、どちらかと言えば大人しい先輩。前に作ったお菓子を美味しそうに食べてくれて、それからは私を見かけるたびに声を掛けてくれるようになった。たまに声が小さくて私が気づかなくて無視を仕掛けることがあるけど、その度に友達の誰かが「奏、先輩先輩」と教えてくれる。

「焼き菓子?」
「はい。今日は初心に戻ってクッキーです」
「………」
「今日は小分けにしてなくて……」
「そうか…」

まるで子犬が叱られたかのような雰囲気。先輩にそんな表現を使っちゃ失礼なのもわかってるけど…。それが頭に浮かんでしまう。
それに青八木先輩は私よりも背が小さいし、地味だけど可愛い。これも男の人には失礼なので、絶対に言えないけど。

「あの、これよければ自転車部の人達で」
「いいのか?」
「はい。今家族で減量中の人がいたりで、あると恨めしそうに見られるので」
「ダイエットか?」
「…ダイエットというより、本当に減量です」
「無理はよくない」
「好きでやっているので」
「……これ、本当にいいのか?」
「はい。あ、でも荷物になっちゃいますね…」
「大丈夫、今から部室に行くから」

自転車部の人は食欲旺盛らしい。鳴子くんも田所先輩も青八木先輩もよく食べている。他の人も食べたりしているを見たことあるけど、あの三人は群を抜いている気がする。
袋を渡すと青八木先輩は嬉しそうに袋の中を覗いている。

「ありがとう」
「あ、いえ…そんなものでよければ」
「朱堂さんの作るお菓子は美味しいから好きだ」
「あ、ありがとうございます」
「あー!!朱堂さん見つけたで!って無口先輩に先越された!!」

ワイが貰おう思ってたん!!と息を切らして私の横に並ぶように自転車がブレーキ音を立てる。
私を挟んで青八木先輩とケンカするように話すのはやめてほしいんだけど…。

「無口先輩ズルいわ!それワイんや」
「ズルくない。それにこれは部活にって貰った」
「今から青八木先輩部室行くって言ってたら鳴子くんも行けばいいんじゃ…」
「ここで2、3枚食べたいんや」
「立ち食いは駄目だ。作ってくれた朱堂さんにも失礼」

お菓子の入った袋をガードして鳴子くんに注意してる。
すみません、そんなたいそうなモノじゃないんです…。



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