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 仲良しの証明

「奏」
「……ん?」

名前を呼び捨てにされてマネージャーである奏はかたまった。名前を呼んだ本人である新開隼人はいつもの様に笑顔でパワーバーを頬張っている。

「奏」
「……私?」
「そうそう私」
「な、なんで…いきなり、呼び捨て?しかも苗字じゃなくて、名前?」
「だって奏以外みんな下の名前で呼んでるのに、奏だけ朱堂って呼んでたから」

確かに新開は同学年の部員を下の名前で呼んでいた。それはまあ奏からしたら特に気にしたこともなかったし、いままで苗字呼びだったしで気にしたことはなかった。
それに女子に人気が高い新開だ。変に呼び捨てされて噂が立つと面倒そうだし、というのが奏の本心でもある。男の部活にいるとそういうところに神経を使わなくてはいけなくて意外と大変なのである。

「……うーんと」
「迷惑?」
「どちらかと言えば」
「え」
「まず恥ずかしい。彼氏彼女じゃないし」

奏は嫌というより困る点を挙げていく。
東堂まで堂々としたファンクラブではないが、それなりに人気のある男子だ。事実がそうでなくても変に噂が立ってしまえば面倒事が起こりそうなのでできれば回避したい。もちろん新開隼人という人物が嫌いなわけではない。
次に今まで苗字で呼んでいたのがいきなり下の名前で呼ばれれば先の理由同様に部活内でも変な噂、言えば二人が付き合っているのではないと言われてしまう。奏が男子であればそういった事は気にはならないのだが、そこだ。
ついでに言えば、奏自身今まで慣れていないのでやめてほしいという理由がある。

「そういうのは、彼女にしてあげるべきだと思うのよ」
「彼女じゃなきゃ駄目か?」
「だって、特別感がなくなっちゃうじゃない」
「特別感…」
「あとそうやって食べるのは行儀が悪いから止めようね」

奏が部活の洗濯物の整理をしている一方で話かけつつも食べている。奏を手伝うわけでもなく、奏がせっせと作業をしているのを眺めながら。ついでに言えば今練習中のはずなのだが。

「奏も仲間だからそれがいいと思ったんだけどなー」
「恥ずかしいので、いつもの通り朱堂でお願いしますよ新開さん」
「さん付けにされた!」
「食べかすが落ちてるので掃除してください」
「敬語!」

奏に言われるままに新開は掃除道具を取りに行ってちゃんとこぼしたゴミを綺麗にしているあたりいい人間だ。

「女の子はさ、好きな人の特別になりたんだよ」
「男だってそうだろ?」
「まあそうだと思うけど。でもその一つが呼び捨てなんだと思う。もちろん新開くんの言ってることもわかるよ。でも…だから、今までのままがいいと思う」
「そんなもんか…」
「そんなものだよ」
「言っておくけど、新開くんの事嫌いじゃないよ」
「オレも」

二人で少しだけ笑って、奏は「コレ部室の棚に持って行って」と用事を頼んだ。



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