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 やじるしの色違い

「…む、無理だよ」
「えー、どうして?だって家庭科部は毎日じゃないでしょ?」
「そ、そうだけど…」
「部活ない日だけでいいから、ね?」
「私、そんな兼部なんて無理だよ寒咲さんっ」

たまたま帰りに鳴子くんと小野田くんと会って、お菓子をあげて、そうしたら寒咲さんに手伝ってって引っ張られてお手伝いして寒咲さんとお友達になってからというもの、ここ最近ずっと寒咲さんに「自転車部のマネージャー一緒にやろうよ」と誘われてしまっている。

「どうして?家庭科部の忙しい時は来なくていいからさ」
「べ、別に私じゃなくてもいいんじゃ…」
「だって私、奏ちゃんと部活がしたいなーって。あと幹でいいよ」

そんな会話をもう何度したかな。覚えてないくらいにはしている。同じクラスの鳴子くんでさえ最近では「もうやめぇや」と同情さえしてくれている。最初は幹ちゃん派だったけど。
それでも幹ちゃんは諦めてくれそうにない。

「朱堂さー…ん」
「小野田くん…さては幹ちゃん絡みだな…」
「うん…」

「朱堂奏って、お前か?」
「…は、はい…?」
「寒咲からなんだが」
「お、お断りしてます…ので、はい」

という感じに一年生攻撃を受けました。そして鳴子くんが言っていたスカシさんがクラスの女子に人気のある人で、名前が今泉くんと言う事を知りました。今泉くんは私から見たら、私から見なくても私より背の高い男子。それは女子が喜ぶのがわかる気がする。背の高い男子は魅力的だもんね、なんて客観的に思ってしまう。
そんな自転車部の人は私よりも背の高い人が何人かいて、あの時手伝った時には少しだけ居心地が良かった。というか、不思議な気分になった。いつも見下ろしていたことが多かったけど、同じ位か少し高い人がいて。それに思っていたかもしれないけど、面と向かって「デカいな」と言う人はいなかった。それだけでもちょっと嬉しかった。

「そういや朱堂さん、なんで寒咲さんの誘い断るん?」
「…なんでって、なんで?」」
「だって毎日来る部員ちゃうやん」
「私家庭科部だよ…」
「なんや、自転車競技部嫌なん?」
「嫌じゃないけど…だって、私自転車の事知らないし……そんな私が中途半端に入ったら迷惑だよ、きっと」
「……なんや、えらい真面目なんやな、朱堂さん」

そんなん気にせんでええのに。と軽く返されてしまった。たぶん、幹ちゃんも同じ考えなんだろうと思うけど、私からしてみたら真面目に部活している人の中に部外者が入っちゃいけない気がして、どうも駄目。そんな気がしている。
それからいつもの様に鳴子くんと少し喋ってから授業の準備をした。



「あ!朱堂さんやん!!その袋菓子やな!!」

昇降口を出て、自分のいわゆるママチャリのカゴに荷物を乗せて校内から出ようとしていると、後ろからスピードを出して追い越して行く赤い自転車。鳴子くんかーと思っているとその彼の目は目ざとく私が作ったお菓子の袋をロックオンしたらしい。軽快なブレーキ音を立て、方向転換をして私の横に立って袋をジーっと見つめる。

「……部活中?」
「おう」
「……鳴子くん?」
「菓子くれ!」

それはもうキラッキラの目で私の自転車のかごを見ている。正確にはお菓子が入っている袋だけど。

「………今日はマフィンだけど、いくつ食べる?」
「貰えんなら貰える分だけ貰うで!」
「口の中パッサパサになっちゃうよ…」
「何のためのコレやと思うとるん」
「なに?それ」
「ドリンクや」

部活中…というか、外周とかそういう練習中じゃないの?と私の質問に鳴子くんは袋から目を離さずに「自主練や」と答える。うーん、これはお菓子をあげるまで解放してくれないなと思って、そこからマフィンを一つ。

「なんや一つだけかいな」
「それは鳴子くんの分で、これが小野田くん、これは幹ちゃんに」
「その二人の分やったら仕方ないな。渡しとくわ」
「うん」
「スカシにない所がええな。ワイ朱堂さんのそういうとこ好きやで」
「なんだ告白してんのか豆粒が」
「豆粒ちゃうわ、オッサン!!」

ビックリして見ると確か田所さんって呼ばれている3年の先輩だ。幹ちゃんの手伝いをしている時に声が大きくて驚いた覚えがある。

「こ、こんにちは…」
「確か寒咲が声かけてるっていう1年だな」
「オッサンさっさと行けや、ワイ休憩してんねん」
「お、なんだ菓子か?良いもん持ってんじゃねぇか」
「これはワイんのや!やらんで」
「あ、あの、これ…よければ、どうぞ。味とかの保証はないですけど」

ひとつ差し出すと「わりいな」と貰われた。

「あ!何すんねんオッサン!あわよくばワイが貰おうと思ってたヤツやで!」
「3つも持っててまだ食う気か!」
「これは小野田くんと寒咲さんの分や!」

鳴子くん今日もまた飢えてるんだな…と何とも言えない気分でその様子を眺める。変に口出すと怖そうなので。
それにしてもこの二人、凄くうるさい。失礼だけど素直にそう思う。先輩も素が大きい声なのか、鳴子くんとならんでヒートアップすると大きい大きい。

……私、帰りたんだけどいいかな………。



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