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 初心は愛い

「注文していた備品類が届いたから」

そう顧問に言われていつもの様に荷台に乗せて、それを運ぶ。
今回は何かと備品が少なくなっていたので、いつもより多くて荷台が重い。ちゃんと綺麗に積み上げても、ちょっとした振動がずっと続くものだから手がジンジンじてくるし荷物も崩れそうになってくる。なのでたまに止まっては直しての繰り返しだ。

「朱堂さん、お疲れ様です」
「あ、泉田くんお疲れ様。今日は委員会で遅れてたんだっけ」
「はい、これから部室に行って…これ、備品ですか?」
「うん、そう。今回色々注文してて多いの」
「手伝います」

重いのはこれとこれですね。と荷台の下の方にある段ボール箱をうまく抜いて持つ泉田くん。重い荷物を運ぶための荷台なので、そんなことを気にしなくていいのにと慌てて「気にしないで」と言ったものの、泉田くん本人は「平気です」とにこやかに返されてしまった。

「いいよ、泉田くん。練習に急いだ方がいいよ。荷台に乗せれば私運べるから、ね?」
「気にしないでください、これも部活の一部ですよ」
「いやいや、泉田くん選手でしょ」
「先輩の手伝いは後輩の仕事でもありますよ」
「で、でも…」
「朱堂さん、一番上の落ちそうですよ」
「あ」

本当だ。と急いで直す。
その間も泉田くんは私が歩き出すまで待っていてくれている。私を待っていなくても先に行って荷物おいて部活を始めてもいいのに。

「大丈夫ですか?」
「うん、教えてくれてありがとう…先に行ってくれてもいいんだよ?部活」
「そんな。朱堂さん置いて行けませんよ」
「気にしないでいいのに」
「朱堂さんこそ気にしすぎですよ」
「そうかな」
「そうですよ」

とりあえず泉田くんは私を置いて部活に行くつもりがないのがよく分かった。それならもうお願いしちゃおうと荷台の一番上の軽くてよく落ちそうになっているものを泉田くんの荷物の上に乗せる。

「……これも持てばいいんですか?」
「うん、これ軽くてすぐ落ちそうになるの。だからって手で持つと荷台押しにくくて。なのでお願いします」
「はい」

私が折れる…というか、開き直ってしまえば話は早い。荷物が落ちない程度の速度で二人で一緒に歩いて部室まで行く。その途中で校外に練習に行く部員とすれ違う。すれ違うといっても、歩いている場所が少し遠いのであっちは気づいていないと思う。気づいていたなら何かアクションがあるけど、全くなかった。
「外練習始めてる人いるね」「そうですね」となんてことのない会話をして歩く。

「ありがとう、ここまでくれば一人で平気だから部活に戻って」
「最後まで手伝いますよ」
「いいよ、泉田くんの部活の時間が無くなっちゃう」

その位じゃなくなりませんよ。と笑って部室のドアを開ける。
備品の置き場は決まっていて、ついでに私がほぼ管理している。備品の場所は私以外の部員も把握しているので、使ったら私に言うかノートに記録するのが決まり。なので「これ何処ですか」ということは少なく、もちろん泉田くんも知っている。

「高い所は任せてください」
「…ありがとう。あと重いのも頼んでもいいかな、私ノートに記録するから」
「はい」

誰かに頼んでこうして分担するのは久しぶりだなと思う。一人でやっているのを見つけると福富くんか新開くん、東堂くんとか、そrねい荒北くんが手伝ってくれていた。でも最終学年の3年になってしまうと練習に力が入るのでそういうことは少なくなったいた。
それが寂しいとか、困ると言う事はないけど、それが最後の学年になったんだなという気分にさせる。

「朱堂さん、これはあそこでいいですか?」
「うん、そこでお願いします」
「はい」
「ね、泉田くん」
「はい?」
「泉田くん、モテるでしょ」
「…え!?」

私がそういうと、驚いた泉田くん。確かに私はそういう話をしない。それは男子と女子という性別の違いもあるし、学年だって違う。私はクラスの仲の良い女子とはそういった話はするけど、部活ではしない。そういうものだし、それが普通だと思っている。

「ね、彼女とかいないの?」
「い、いませんよ!」
「えー、そうなの?モテそうなのに?というか、やっぱりモテるでしょ」
「な、な…なんなんですか…?」
「いや、だって優しいでしょ?それに東堂くんに負けず劣らずに綺麗な顔してるし、身長もまあ合格ラインだし、鍛えて良い身体してるし」

まあでも新開くんを尊敬しすぎてるのはちょっとアレかもしれないけど。というのは私の心に留めておいた。

「朱堂さん、ノートの方は…」
「私を誰だと思ってるの、もう終わったよ」
「さ、さすがですね…」
「というのは嘘なんだけどね」
「え」
「でも注文してたヤツは全部確認したから大丈夫」

泉田くんは素直だと私は思う。素直というより、表情が正直。今の私のつまらない嘘に浮きあう様に表情が綺麗に出てしまっている。だから私は泉田くんがモテるのではないかと思うわけだ。その表情はいい意味での反応だから。

「そんな、モテませんよ僕」
「えー、そうなの?きっと隠れファンがいるよ」
「ファン…ですか?それなら新開さんですよ」
「だから、そういう表立ったのじゃなくて、陰に隠れてひっそりと応援してる子」
「いませんよ」
「いると思うけどなー。泉田くん格好良いもん」
「朱堂さん、も…そう、思ってます?」
「うん。泉田くん格好良いよ」

照れたのか、顔を赤くして俯いてしまった。そういうところが可愛い…というと失礼だけど、私は良い所だと思っている。そういう反応してくれるのは東堂くんと新開くんを除いた人なんだけど。

「あ、ありがとう…ございます」
「どういたしまして?」

いたたまれなくなってしまったのか、泉田くんは「そろそろ部活始めますね!」と勢いよく礼をして行ってしまった。
なんだか余計な事を言ってしまったような気がして、悪かったかな。



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