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「#エロ」のBL小説を読む
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 その差は手のひらよりも小さい

※Not箱学マネ


「そんなん押し倒してしまえば一緒やん、悩むだけ無意味やで」

鳴子とペアを組んだ長身の女子に言ってのける。
その女子は鳴子よりも10cmほど背が高く、少し猫背。性格は大人しい部類で、休み時間には読書をしている姿を見る方が多い。

「な、鳴子くんて、結構、アグレッシブ、だね…」
「せっかくの身長やん、猫背でいるよりもシャキッとしぃ。ワイの身長とかえてほしいくらいやわ」
「え、せっかく可愛い…」
「あ?」

な、なんでもないよ。と朱堂奏はサッと自分の口に手を当てる。
奏が自分の身長を気にしているのと同じで、鳴子も気にしているのがわかるのだ。

「で、でもね。私、結構この身長好きだよ」
「なら猫背治しぃや」
「そ、そうなんだけど…友達はカッコいいって言ってくれるし、高い所のモノとか取れるし」
「なんや、ワイに対する嫌味か」
「でもね、カッコいいより可愛いがいいし、ヒールの靴だって履きたい。私の身長より高い人ってあんまりいないし、男の子からはデカ女って言われてるの知ってるんだよ」

多分、鳴子くんと反対だと思う。と奏は続ける。

「まあワイやてチビ言われれば腹立つからな…でもワイは可愛くなんてないやろ。どちらかと言えば、ド派手で恰好ええやろ?」

ビシッ、ビシッとポーズを決めてはどうだと奏に感想を求める。奏は少し困った顔をして「格好いいよね」と答える。

「だから朱堂さんも背が高くても可愛くなればええんや」
「え」
「身長なんぞ飾りや飾り。大切なんはここや、ここ」
「……胸?」
「ちゃうわ!…いや、あんな、ここっちゅうのは、胸やのうて心や、心」

それにワイから見たら朱堂さんは可愛いより美人の方がしっくりくるわ。と笑う。
それに奏は呆気にとられてから我に戻り、どう反応したらいいのかわからなくて俯いた。



「お、朱堂さんやん。今帰りなん?」
「うん。鳴子くんの自転車?真っ赤なんだね」
「ええやろ?」
「うん」

奏の部活は家庭科部で、今日はたまたま調理の実習があり、普段よりも帰りが遅い。持っている紙袋には部活で作ったお菓子が入っている。

「あれ?朱堂さん。鳴子くんと知り合いなの?」
「同じクラスなんや。それより小野田くんも知り合いなん?」
「小中と一緒で、高校も一緒なんだよ」
「小野田くんも自転車競技部なんだね」
「うん…朱堂さんは高校でも家庭科部?」
「うん。今日は部活の日でお菓子作ったんだよ」

今日はマドレーヌなんだ。と持っていた袋を開けて中身を取り出す。
さすがは女子の部活の代名詞。一つ一つシンプルにだが包装されている。

「ほー!美味そうやな」
「美味しいよ。朱堂さんお菓子とか料理とか上手なんだよ」
「なんや、小野田くん食べた事あるん?」
「家庭科の調理実習とかで」
「ほー、ええな。朱堂さん、ワイに一つもらえるか?」

すこしきょとんとして、奏は「美味しくなくてもいいなら」と袋から二つ。小野田と鳴子の分を手に取る。

「おお、ありがとう。ちょうど腹減ってんねん」
「もう一つもらってもいい?」
「いいけど…小野田くんが食べるの?」
「ううん、今泉くんにもって思って」
「ふーん?」

いまいち今泉という人物にピンとこない奏は小野田に言われるままにもう一つ手に持って小野田に渡す。
鳴子はその様子を見ながらもうすでにマドレーヌの包装を破って食べ始めている。

「おお!美味いな!なんやこれ!!」
「マドレーヌ…」
「知っとるわ!そういうんやないわ、これ朱堂さん作ったん?ホンマに?」
「え、ああ…うん。鳴子くん、お腹空いてたんだね…」
「もう一個、もう一個くれ!」
「…えっと」
「スカシになんぞやらんでええわ。小野田くん、それワイにくれ」
「えええ…鳴子くん、それは…」

あまりに腹を空かせてしまっていたが為に、食欲のスイッチが入ったのだと思った奏は急いでまたマドレーヌを取り出す。自宅用でも定期的に作っているのでそれほど惜しくはないし、家族も飽きてしまっているので余ってしまうのが実情。それなら少しでも喜んでくれる人にあげた方がいいと考えた。

「凄いわ朱堂さん、また作ったらくれへん?うまいわー」
「あ、ありがとう…」

あまりにバクバクと食べている鳴子に少し引き気味の奏と小野田。そんな鳴子を眺めていると「あれ?」と女子の声がする。

「寒咲さん」
「なに?なにしてるの?」
「朱堂さんから菓子もろてん、美味いで。寒咲さんも貰い」
「あ、マドレーヌ?すごーい」
「え、あ…えっと、カンザキ、さん?よ、よかったら…」
「え、いいの?私寒咲幹」
「朱堂、奏です」
「ありがとう。ねえ、奏ちゃん。これか時間ある?」
「え?」
「お手伝いしてほしいなって」

あまりに唐突で、そしてあまりにいい笑顔で奏が断ることができずに言われるまま自転車競技部の部室に連れ込まれた。






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