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 美しい言葉では語れない

※小野田姉


「お、奏ちゃんじゃん。何してんのォ」
「サークルの休憩。ノド乾いてさ」

ガコンと自販機が音を出す。見ればミネラルウォーターのペットボトルで、奏が「荒北くんも休憩?」と言いながらボトルのふたを開けている。

「オレも休憩」
「マネージャーとかが『はい、荒北くんお疲れ様』って飲み物くれたりしないの?」
「んなもん金城とかイケメンってやつにしかねえよ」
「へーそうなんだ」
「そうなのォ」

チャリンチャリンと金を入れて、奏とは違うところにあるボタンを押して、また自販機が音を出して品物を出す。どうやら今度は運動をしている人間らしくスポーツドリンクだ。

「休憩いつまで?」
「30分くらいかな」
「んじゃ同じくらいか。そういや奏ちゃんサークル何入ってんの」
「私?んー、声楽」
「声楽ゥ!?」
「何その反応!これでも私高校の時部活で『合唱部のジャイアン』とか『暴君』とか言われてたんだぞ!」
「それ悪口だろ!」
「違うよ!悪口じゃないよ!」

ムッとして怒った奏が何か言おうとしたら、むせた。
それはもう、げふんげふんとむせて、荒北が逆に「ちょっと、奏ちゃん大丈夫?」と心配するくらいに。
今飲んでいた水が肺の方に入ったのか、なかなかその咳は止まらず、不憫に思った荒北が奏の背中を少し遠慮げに撫ぜる。

「なんじゃ荒北。小野田と付きおうとるんか」
「違ぇよ!奏ちゃんむせてっから」
「荒北にイジメられたのか奏」
「どうしてそうなるんだよ!!」

治まったかと思えば、またゲホゲホとし始めてやっと待宮と金城が「本当だ」と納得したらしい。

「あー、もう!」
「ケンカでもしとったんか?」
「荒北くんが私が歌うたうの、信じられないって失礼なこと…ゲホ」
「ああ、この前言ってたヤツか」
「オレじゃて歌うぞ?カラオケ行くか?」
「違う、奏が言っているのはサークルの話だ。確か…高校の部活ではジャイアンとか暴君とか言われていたとか。合唱部だったか?」

またゲホゲホと咳込みながら頷く奏。
そんな奏を気にすることなく、男三人は奏を見て「合唱部?」と半信半疑の様子。奏が合唱部だというのは金城の情報だが、本人である金城は部活の後輩である小野田とその友人である今泉と鳴子からの情報でしかない。実際に奏が歌っているところを聞いたことはない。

「……金城くんはマネージャーさんに『お疲れ様』って言われて飲み物貰ってないの?」
「…ああ、貰ってないが…?」
「なんじゃ、小野田はマネ志望か?」
「いや、さっき…ゲホ…荒北くんと話してて、マネさんから飲み物貰えるのはイケメンだけと聞いて」
「ワシにも聞けぇ」
「待宮くんはないかと」

だって彼女持ちなんでしょ。と少し違ったことを言ってくる。
恐らくはそれだけではないので奏なりの優しさなのだろうなと待宮以外が思う。
ついでに奏から見ても金城はイケメンの部類に入るらしいというもの分かった。

「小野田がマネになって、ワシにドリンクくれてもええんじゃで?」
「えー」
「なんじゃ、えーって」
「えーなんだろ」
「えーなんだろうな」
「ゲホ」
「まだ駄目なの?」
「まだちょっと残ってる…」

うー。と唸って、持っていたペットボトルを睨む。別に水が悪いわけではないが、そのもやもやを発散するにはどうしたものかと奏なりに考えているらしい。

「奏、歌ってみてくれないか?」
「え、なんで」
「そりゃ疑ってるからだろ」
「なにー!よしきた、歌って汚名返上だ」

大きく息を吐いて、そしてスゥと吸い込む。
いざ始まろうとした時だ

「ゲホゲホ…ごめ、今…駄目だ…」

色々と残念な目で見られているのを感じた奏たので、奏は逃げることにした。



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