弱虫 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 温度差

「奏!」
「あ、コラ真波!話はまだ…」

急に笑顔になって走り出したと思ったら、その先には真波と同じ様な髪色の人がいる。顔は見えないが、恐らく家族の誰か。呼び捨てにしているところから推測すれば妹あたりなのだろう。
家族を見つけて嬉しいのはわかる。しかし真波、お前は寮生じゃないだろう。それにまだ話が終わっていない。

「……、凛々しい真波だ」
「………真波奏です」
「東堂さん、可愛いでしょ?オレの双子の妹」

いつもふやけた様な顔をしている真波に対して、その彼女の凛々しさたるや。真波を温暖というなら彼女は寒冷だろう。言うに正反対の印象を与えるほどに彼女は凛々しい。

「…双子?妹?姉の間違いではないか?」
「オレの、双子の、妹の、奏。来てくれるとは思わなかったからオレ、凄く嬉しい!」
「どうせ山岳の事だから周りに迷惑かけているんだと思って謝りに来た。山岳がいつもご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」
「本当にお前の双子なのか!?」
「はーい」

そっくりでしょ?と笑って彼女と顔をくっつける。確かに似ている。言えば女版真波だ。オレから見ても美形だと言えるだろう。笑顔ニッコニコの真波に対して彼女は実に冷めた顔をしているが。

「奏が来てくれたからオレ頑張る!」
「…どうだか。東堂さん、不出来な兄ですがどうかよろしくお願いいたします」
「あ、ああ……」
「もう体は平気だし、その不出来ってやめてよ」
「遅刻魔にサボり魔のどこが不出来じゃないのか教えてほしいくらいに不出来だと私は思うけど」
「本当に双子か!?」

あまりにも性格が似ていないせいか、疑いたくなる。顔はそっくりだが、性格が違いすぎるだろう。そしてオレの目の前でイチャつくなと言いそうになったが、その二人の温度差が激しすぎて真波の一方通行にしか見えずに逆に気を使ってしまう。彼女の方に。

「奏冷たい!」
「こうやって会話してあげているんだからいいでしょ」
「せっかくオレのIH見に来てくれたのに!」
「じゃあもっとシャッキっとして。東堂さん見習って、他のメンバー見習って」

あと暑いからはなれて。とくっ付いていた真波の顔をグイッと押しやる。真波は「いたーい」と笑っているが、離れようとしない。ああ、この子苦労してるんだとみてわかる。

「山岳、東堂さんと話してたんでしょ」
「あ、そうだ」
「真波、妹さんを見つけて嬉しいのはわかった。はなれろ」
「え?どうして?」
「それはな、これからオレと打ち合わせをするからだ!」
「奏も一緒じゃダメですか?」
「駄目だろ」

痛恨の一撃になったのか、彼女にそういわれてゆっくりとはなれる。そして「早く行け、東堂さんに迷惑かけるな。むしろメンバーと部員に迷惑かけるな」と言って彼女は真波を見送っている。
確かに顔は似ているし、真波のあの懐き様から見ても双子なのだろうとは思う。しかし解せん、真波の性格と彼女の性格の差というか真逆性というか。

「あーあ、奏来てくれたのに…」
「お前は妹大好きだな」
「はい!だって奏は何でもできて凄いんですよ。運動神経もいいし、頭もいいし、中学の頃はなんとか長とかよくやってました!」
「お前と正反対だな…」
「だって奏はオレじゃないですからね」

妹自慢が始まりそうだったので、IHの打ち合わせの話に強制的にする。どうも集中しないのか、妹が居た方向をちらちらと気にするが、こっちにもIHの打ち合わせという大事な話の最中だ。何度か叱っては集中させる。

「……以上だ、もういいぞ」
「え、本当ですか?奏のところに行っててもいいですか?」
「…時間に戻れるんならな」
「やった!ありがとう東堂さん!奏!」

走って彼女と別れたところに戻ったのだろう。嬉しそうな後姿を見送って溜息がでた。
王者たる箱学のレギュラーになった1年があれでいいのだろうか。真波の実力は認めているが、あの性格だ。むしろあの妹を味方につければ真波はやる気を出すのだろうかと悩む。妹の性格は一言でいうならクールだろう、このオレを見ても表情のひとつも動かない。

「どうした尽八」
「いや、さっき真波の妹と会ったのだが…」
「妹?」
「性格が正反対でな…もう水と油の様にハッキリと」
「東堂さん!奏が居なくなっってた!!」
「ちなみに油は真波で妹は水だ」

言いえて妙、そんな気がする。



prevnext