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 happy birthday

「うわぁ」

朝練が終わっていつもの様に同じクラスの朱堂と一緒に教室に行けば朱堂の
姿を見た朱堂を見つけた女子が走って朱堂に何かを渡す。

「誕生日おめでと奏」
「ありがとう!」
「…朱堂、今日誕生日なのか?」
「あれ?福富くん奏の誕生日知らないの?」
「ああ…」

今日は奏の誕生日なんだよ。と朱堂にまた「おめでとう」と言って一緒に笑っている。
朱堂とは同じ部活になってからもう最終学年だ。今まで朱堂の誕生日を知らなかった。それは多分オレだけじゃなく、誰も知らなかった事だと思う。
朱堂とは席が近いので、朱堂にバレない様に携帯を取り出してメンバーに連絡をまわす。
『今日朱堂の誕生日らしい』
すぐに連絡が来たのは荒北。
『マジで!?』
その一言だが、朱堂と仲が良いだけショックなのかもしれない。荒北の誕生日には朱堂は荒北の好きなベプシをやっていた。
次に東堂が『何!?それは本当なのかフク!あ』最後の『あ』はなんだ。たぶんそれだけ動揺したんだろうとは見当がつく。東堂と朱堂はフザケるくらいには仲が良い。たまに朱堂が東堂をおちょくるが、それを東堂が本気で嫌がったことはない。
最後に新開だが、教室に少し遅れてきたので気づいていなかったらしく、昼近くなって『え、ちょっとそれ本当?』と来た。いいから授業を受けろ新開。

「で、朱堂ちゃんの誕生日って本当なの福ちゃん」
「ああ、今朝教室で朱堂が祝われていた」
「オレそれ見てないけど」
「新開は来るのが遅かったからな。オレと朱堂は一緒に教室に行ったから」
「オレのファンクラブの子に朱堂の友人がいてな、聞けば今日は朱堂の誕生日で間違いないらしい」

食堂で朱堂の誕生日について小さい会議を始める。昼に朱堂が食堂を利用することは少なく、仲の良い女子と弁当を教室で食べるのが日課になっている。
昼を取りながら朱堂の誕生日をどうするかを話合うが、なかなか案が浮かばない。

「つうか、今までどうして朱堂ちゃんの誕生日知らなかったんだろ…」
「あまりに気にしたことなかったからな…」
「朱堂はオレ達の誕生日知ってて祝ってくれたな…」
「悩んでも仕方ない」

しかし今日誕生日なのを今朝知ったので、どうやったらいいのかわからない。しかも今日も部活があるので何かを準備しようにも時間がない。そもそも朱堂が今日誰の誕生日だとか、そういう情報はマネージャーの特権。そうではない部員なので朱堂が言っていてやっと知る程度の事だった。
簡単に「コンビニでケーキ買う?」「お菓子買ってくる?」というものしかない。

「駄目だ…朱堂が喜ぶのってわからねぇ…」
「そう思うと朱堂は観察眼が鋭いな…オレ達が好きなものを選んでいた…」
「朱堂ちゃんて何が好きなの…」

昼食が終わっても朱堂の案が浮かばない。
確かに今まで朱堂の誕生日を知らないことに疑問がなかったのを思うと不思議だ。
それに朱堂の好きなものも、喜ぶものも知らない。お菓子を持ち歩いていると言っても、大体が新開対策になっているし、「これが好き」というのを聞いたことがあまりない。
とりあえず次の授業もあるのでこの件は保留にして、部活までにいい案があれば連絡しようということになった。

やはり部活の時間になってもいい案は浮かばず、唸る様に部活をしていると朱堂が心配してきた。それを朱堂本人に言うわけにもいかないので気にするなと言っておく。

「具合、悪くないの?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「……悩み事、私でよければ聞くからね」
「……ああ」

すまん。こればかりは朱堂に聞くことができない。聞ければ一番楽なんだろうが、聞いたら意味がなくなってしまう。
どうやらオレだけがそうだったわけではなく、今朝連絡した面々が次々と朱堂に声を掛けられては挙動不審になり、結果「なんでもない」と同じ言葉を口にしている。

「朱堂さん」
「なに?黒田くん。タオル?ドリンク?あ、保冷剤は冷凍庫にあるよ」
「違いますよ。今日誕生日だって聞いて。おめでとうございます」
「わー、ありがとう。嬉しい」

それじゃあ。と朱堂に向かって一礼して練習に戻る黒田を見て、オレだけじゃなく荒北も新開も東堂も目を見開いた。
そうだ。これだけ4人で唸って悩んでいたわりに、誰も朱堂に「おめでとう」の一言も言ってなかった。

「黒田に先越された…」
「というか、なぜ黒田は朱堂の誕生日を知っていたのだ?」
「朱堂と仲良い女子と委員会が同じだったと思う」
「それ経由か…」

先ほどの黒田と朱堂の会話を聞いていたのか、次々と朱堂のところに来ては「朱堂さんおめでとう」「朱堂さん教えてくれればいいのに」という言葉が出てきている。
確かに教えてくれればいいものの、朱堂の性格からしてそれはない。自分からアピールするタイプの人間ではないし、東堂の様に自分からアピールしてくれればこうやって悩むこともなかった。

「…オレ達も行くゥ?」
「まあ…この波に乗ってしまえば誤魔化せるというか…だな」
「…そう、だな」
「誤魔化さなくても謝ればいい」
「…そだネ」

朱堂がほかの部員と話しているのが終わったのを見計らって四人で並んで朱堂の前に立つと、朱堂はどうしたの?といつもと変わらい様子で頭を傾げる。

「朱堂ちゃん、誕生日オメデト」
「すまんな、今日朱堂の誕生日と知って何も準備してないのだ…」
「パワーバーならあるんだけど…朱堂の好きな味じゃないし…」
「それに余計な心配をかけた」
「あ、もしかしてさっきのアレは、私の誕生日で悩んでたの?」

そろって頷くと朱堂が下を向いて笑い始める。
何か面白いところがあっただろうかと考えるが、心当たりはない。むしろ呆れられると思っていた。

「いらないことで悩んでたんだね、みんな」
「いらなくないだろ、だって朱堂の誕生日知らなかったけど、朱堂はオレ達の誕生日知ってるし…」
「だってそれ、今まで何も言ってこなかったじゃない」
「そ、そうだが…オレ達ばかりで申し訳ないと」
「だから朝からコソコソしてたんだね、福富くん」
「…バレていたのか」
「バレバレです」

でも、とりあえず「おめでとう」って言ってくれると嬉しいな。と朱堂が笑った。



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