「おお、似合っておるぞ朔弥!」
「…」
「俺の目に狂いはなかったようだな」
「…」
「見違えたもんだな、おい」
「…」
夢<現実そこは戦場、雇い主は長宗我部元親。
傭兵である孫市と朔弥はいつもの様に戦に。
そしてガラシャはいつものように二人についてきていた。
三人が参戦した頃は酷い劣勢で、これでは負け戦に行くようなものだったが、なんとか持ちこたえ、勝つ事ができた。
傭兵である孫市はここまで協力して通常料金では割に合わないと雇い主に直談判を申し入れ、それについて行きたがるガラシャに引きずられるかたちで朔弥もそこに行った。
朔弥にしてみたらそういう小面倒臭いことは孫市に任せておきたかった。
話し下手な朔弥にそういう談判など向かなかったし、何より疲れていたので動きたくなかった。
談判する雇い主と孫市、それを興味津々で見るガラシャ。
朔弥が疲れたと大きな溜め息をつくと雇い主が朔弥を見た。
「おい、聞いてんのか?」
「……ああ。ところでアレはお前達の連れか?」
「朔弥のことか?ああ、連れだ。それより」
「何故男の格好をしている。お前の趣味か?」
「なんと!朔弥の男装は孫の趣味か!」
「ちげえよ!つうか嬢ちゃん驚く場所はそこじゃねぇ!」
朔弥が女ってことを一目で分かったところだろうが!と突っ込みを入れる孫市。
ガラシャは「そう言われればそうじゃな」と手を叩いた。
当の朔弥といえば、疲れてそれどころかではない。
その話しに入る事も億劫なのだ。
銃を抱えて座り込み、うなだれる朔弥に徐にに近付き、動かない朔弥に跪き、朔弥の顎に手を当てて顔を上げさせた。
「…あの、なにか?」
「おい、こっちの話はまだ…」
「女、名前はなんという」
「…はい?」
「名前、だ」
「…朔弥、です」
そして冒頭に戻る。
何故か城に呼ばれ、風呂や食事をいただき、もてなしてもらった。
その間孫市は料金の話をしようとしては流されていた。
しかし孫市も商売だ、もてなしを受けてチャラにされてしまえばオマンマの食い上げだ。
なんだかんだとしていると元親に呼ばれた朔弥。
ガラシャはなんじゃなんじゃと付いて来たが、元親は気にする様子もなく朔弥に着物を差し出した。
それはとても上品な品物で、ガラシャは目を丸くしてそれを見つめ、朔弥はそういう物には疎かったがそれが値の張る物だったいうことは分かった。
すると元親は朔弥に脱げと命じた。
それには抵抗した二人だったが、元親がこの着物を着せてやると言うことだった。
「そもそもなんで男に着せられたんだろ…私」
「朔弥は姫のようじゃな!」
「確かになー。これだとどっかの姫様みたいだな」
「俺の見立て、悪くないだろう」
何故かご満悦の元親。
聞きたい事はある。
何故女の着物を持っているのか、朔弥が男装しているのに女だと分かったのか。
「元がいいのだ、何故いちいち男装をする」
「本当じゃな!」
「ガラシャ…そこ賛同するところじゃないから」
「なんだ不満か」
「いいじゃねえか、綺麗で」
「…悪く…ない、けど」
朔弥はなんとも恥ずかしくて俯いた。
男装するのは自分の身を守るため。
戦終わりに男に襲われてはたまらない。
でも、男装が好きなわけではない。
ガラシャの様な可愛らしい格好をしたいかと問われれば答えは否。
しかし朔弥も女だ、少し位は女らしくしたい時もある。
でも朔弥は姫でもなければ町娘でもない、傭兵だ。
生きる為にそんな我が儘は言えない。
((あー、もうどんな反応したらいいのかわかんない。恥ずかしい…))
(朔弥姫なのじゃ)
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