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「おい、なにしてんだ?」

「…池を、眺めてました」


名前忘れた


ごっちゃになった世界の片隅。
城にある池の縁に女がポツンと立っている。
池をボンヤリとみている様だ。
確かあれは朔弥という名前だったと思う。
甘寧はその女に声をかけた。


「池なんか見て面白いか?」

「…はい、私、魚好きなんです」

「おま…これ食っても旨くねえぞ」

「見るのが、好きなんです。ところで…あの」

「あ?」


朔弥から見たら如何にも悪い人、ヤンキーだ。
しかも一昔も二昔も前の。
目つきが悪いし、何より上半身の刺青。
出来るだけ関わりたくない。
しかし見たところ兵よりも武将といった風体。
挨拶のひとつでもしておけば後に繋がるやもしれない。
万が一違ったとしても顔見知りが増える程度だとたかをくくった。


「すみません、三國の方でしょうか。私戦国の者で貴殿の事を存じません。ああ、私雑賀の朔弥と申します」

「あー、確かに三國の人間多いからな。俺は姓は甘名を寧、字を興覇ってんだ。よろしくな」


意外に悪い人ではないのかもしれない。
自分を知らないと正直に言った人間に快く名前を教えてくた。
…悪人面なのはそのままだったが、笑って答えたのは好感が持てた。


「甘寧殿は鈴がお好きなんですか?」

「あ?これか?」

「おい、甘寧。なに絡んでんだよ」

「絡んでねえよ」


どうみても絡んでるっつうの。とまた一人現れた。
見た目では優男だが、甘寧に声をかける辺り怪しい。
男は朔弥に「甘寧に絡まれたんだろ?可哀想にな怖かっただろう」と勝手に心配してくれている。


「お、お初にお目にかかります、私、雑賀の朔弥と申します」

「おー、あんだが。俺は凌統ってんだ、よろしく」

「お二人は仲がよろしいので?」

「「まさか」」


ああ、そういう事か。と朔弥は分かった。
これはどちらかをつつけば面白い事になりそうだと内心黒く笑う朔弥。
大抵こういう場合どちらかが頭が少し弱い。
そちらを少しつつくと面白いのだ。


「なあ朔弥、コイツの通り名知ってるか?」

「甘寧殿の、ですか?さあ…?」

「鈴付けてるから『鈴の甘寧』そのまんま」


なんだよ文句あんのか!?といきり立つ甘寧に小馬鹿にしたような凌統。
そうか、つつべきは甘寧。
そこで朔弥はターゲットを甘寧に絞った。


「だいたいそんなん付けてたら奇襲にゃ向かねぇんよな。チリンチリン、あ、だからお前は切り込み隊長か」

「それではチリンチリンの甘寧殿ですね」

「お、上手いね朔弥」

「見る限り甘寧殿の鈴はチリンよりもガランガランではありません?」

「お前らな…」

「ガランガランなのは甘寧の頭だよ、朔弥」

「ああ、だから鈴なんですね!」


凌統はいい甘寧をからかう仲間が出来たとニヤリと笑い、朔弥は見る人が見たら黒い笑いを控え目に見せた。


(あ、私戻らないと。それでは凌統殿、えーっと、チンチロリンの甘寧殿?)
(鈴、鈴の甘寧だっ!)
(朔弥、それじゃ賭事だっての)

御題提供:確かに恋だった


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