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「あ…」


髪を結い直そうとして解いたタイミングが悪かった。
解いた髪紐は強風に煽られて高い高い枝の上。
キレイに引っ掛かって取れそうにない。
手を伸ばしても届く高さでも、樹によじ登って届く程の枝の太さもない。


「朔弥殿どうされました?おや、今日は髪を結われないのですね」

「いえ…髪を結い直そうとしたら先程の風で髪紐が」


あそこに。と枝を指差すと幸村がそれを見上げる。
いくら長身の幸村でも、あそこまでは届かない。
幸村がいつも持っている槍を使っても届かないだろう。


「どうしよう…」

「あの髪紐、大切なんですか?」

「大切というわけではありませんが…」

「?」

「孫市から貰った物だったので」


無くしたところで特に問題はないのですが、なんだか気が咎めて。と朔弥は困った様に笑った。
特に気に入っていたわけではないのだが、いざ使えなくなってしまうと妙に寂しい気がする。
風にそよいで髪紐と朔弥の髪が揺れた。


「…私が登って取って参ります」

「…え?」

「私が取って参りますので、朔弥殿はここでお待ちください」


私は幼い頃より木登りが好きでして、お任せください。
幸村はそう言うと腕捲りをして木登りの準備を始めた。
それに朔弥は幸村を必死に止めた。
万が一の事があれば申し訳が立たない、どうかそれだけはやめてくれ。朔弥は懇願した。


「しかし、朔弥殿の大切な物なのでは…?」

「そんな事ないです、髪紐よりも幸村殿の方が何倍も大切です」

「…っ」

「髪なんて結えればなんでもいいんです、手拭いでも裂いて髪紐の代わりにすればいいんです。…そうだ、どうせならこの髪切ってしまいましょうか。幸村殿のくらいにまで切ってしまえば結わずにすみますし」

「駄目です!そんな…髪を切ってしまわれるなんて…。そんなにお美しいのに、勿体無い」


それには朔弥が驚いた。
銃の腕は褒められた事はあっても、容姿を褒められた事などただの一度もなかった。
ねねがやたらと可愛いと言っていたのは朔弥の容姿ではないのを朔弥は分かっていたし、朔弥はそれを恥ずかしがる事もしなかった。
どう反応したらいいのかと困って縮こまっていると徐に幸村が近づき、朔弥の髪に手をやった。


「…ああ、そうだ。あの髪紐を取れなかったお詫びに私が朔弥殿に髪紐をお贈りしてもよろしいでしょうか」

「え、え…。いえ、あの…その、あの髪紐を飛ばしてしまったのも、…その、私の不注意な、なので、幸村殿がそのような…ね、はい」

「切ってしまわれるのなら、朔弥殿の髪をこの幸村に下さいませんか」

「…へ?」

「そうして頂ければ朔弥殿の髪はこのままで、私のだと分かるように私の髪紐で結われます」


ですから、私に髪紐を贈らせてください。


それはまるでプロポーズ



(この一件から朔弥は幸村を異性として意識し始める)


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