「…なにやってんだお前ら」
「ま、孫市殿…」
「孫市、見て!」
朔弥と幸村がじゃれている姿が目に入った。
じゃれていると言っても、朔弥を抑える幸村が見えただけだ。
朔弥からの決意を聞かされて、頭が悶々としていた孫市。
自分を落ち着かせるために歩こうと宛もなく歩いていたら声が聞こえてきたから覗いた。
そしたら二人がいた。
確か朔弥は腕が動かないと言って雑賀を抜けると言っていたはずだ。
それが何故幸村とじゃれているのか。
「見て!腕、動くようになったの!ほら、ほら!」
「あ…お、おう……って本当かっ!?」
「本当、本当なんだよ!女カ殿と伏犠殿が」
「だーーー!!朔弥殿捲っては駄目です!駄目です!!!さっき申し上げたばかりではないですか」
感情をここまて表にだすのは珍しい。
だからといって着物の裾を捲ろうとすることや、肩を出そうとするのは大変よろしくない。
それを止めようと幸村は奮起していたのだ。
「…だから騒いでたのか」
「女性がそんな風にしたらはしたないですから!!」
「おや、此方にいたんでー…って何してるんです?」
「左近殿、朔弥殿を止めてください!」
「ほほう、では俺も混ぜてもらいましょうかね」
「ぎゃー!ごめんなさい、もう捲りません!だからその手つきやめてください!」
左近がなんとも厭らしい手つきをしてみせると朔弥は大人しく捲るのをやめ、素早く裾や襟元をなおした。
騒がしい朔弥を見るのは初めてだ。
どちらかと言えば大人しい朔弥。
いつも後ろで、控え目で、目立つ事や騒ぐことはしようとはしなかった。
もしかしたら朔弥のこれが素なのかもしれない。
喜ぶ顔も、騒ぐ顔も、焦る顔も。
戦国にいた頃より楽しそうだし、なにより妲己の一件からの元気な姿だ。
「孫市!」
「あ?なんだよ」
「私、まだ雑賀にいたい。まだ、いてもいい?」
「朔弥……お前」
「もし雑賀が駄目でしたら左近のところに来ませんか?」
朔弥さんがいたら俺の背中は安心なんですよ。と左近が笑いながら言った。
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