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「朔弥、いいかい?あの子が三成で、兼続、左近だよ」

「おねね様、そいつは?」

「この子かい?この子は孫市のとこの子でね、この討伐に参加してたんだよ」

「この討伐で雑賀の活躍は素晴らしかったですからね」


流石戦場にいるだけのことはある。
体つきのがっしりとした大男が集まって酒を飲んでいる。
ねねや朔弥が異質なのだと、改めて実感した。


「幸村、そいつがお前の紹介したいと言っていた奴か?」

「はい、知人がいらっしゃらないと仰っていたので是非にと」

「なにやら不満そうな顔をしているが?」

「え、…いえ、そんなことは…ありませんが」


白く兜を被った男が「そんなことはいいではないか。こちらで一緒に飲もうではないか」と朔弥に声をかけると、ねねは朔弥を頼むよ。と笑いながら去っていった。
その男の言うがままに近寄って腰を降ろすと、ある一人を除いては歓迎してくれている様子。


「それでは改めて紹介させていただきます。こちら、雑賀の朔弥殿。討伐前に知り合いました」

「あっと、雑賀の朔弥と申します」

「朔弥殿、そちらの白い兜の方が直江兼続殿。となりに座っていらっしゃるのが石田三成殿。そして大柄な方が島左近殿」


紹介された直江兼続と島左近という男は快く笑っていたが、石田三成という男はあまり朔弥を良くは思っていない様子。
どうも睨まれている気がしてならない。
この手の人間とは関わらないで方が良さそうではあるが、ある程度のコミュニケーションをとらないと後々面倒なのも確か。
とりあえずは今だけの付き合いだ。そう朔弥はタカをくくり、当たり障りのないような態度で対応していく。


「雑賀というと、狙撃手か」

「はい」

「この討伐での雑賀の戦果は目を見張るものがあるからな」

「しかし雑賀が参加するとはな」

「…雑賀が参加するのが何がおかしいのでしょうか?」


朔弥が疑問に思った事を投げかけると、皆にキョトンとされてしまった。
その場の雰囲気からして、参加するのが珍しい様だ。


「お前、雑賀なのだろう?」

「…はい、ですが最近雑賀に入ったものでこれが初陣でして」

「ほう、では…」




「なんだい、あっちの方が騒がしいね」


討伐が終わり、酒の席だから騒がしいのは当たり前だが、それ以上に騒がしい。
誰かが酒を飲んで大声を上げているのか、口論をしているのか。

「確かあっちには三成達がいたねえ」

「…なあ、ねね。そっちに朔弥も連れてったって言ったよな」

「ん?ああ、そうだよ。朔弥に友達をと思ってね。幸村と仲良しさんになってて驚いたけどね」

「ほー、幸村の奴手が早いのぉ」

何故か嫌な予感がした孫市はちょっと様子を見てくると酒の席を立った。




近づけば三成と朔弥が立ち上がって何やら言い合っている。
言い合いとは言っても、三成が一方的に言っているというか、睨みをきかせている。
朔弥は黙って縮こまっているというのが相応しいかもしれない。
こちらからではよくは見えないが、三成は朔弥の胸ぐらを掴んでいるようだ。


「おい、二人とも…」


孫市が声を掛けた瞬間の事だ。
朔弥は三成の腕を持ち、足を引っ掛けると背負い投げたのだ。
三成は綺麗に宙を舞い、勢い良く地面に叩きつけられた。
それを呆然と見る事しかできないその場に座る三人、開いた口が塞がらない孫市、目を回す三成に涼しげな顔の朔弥。
一番に動いたのは三成の部下の左近、三成に駆け寄った。
我に返った孫市は朔弥を叱ろうと近づくが、朔弥の様子がおかしくなってきた事に気付いた。


「おい、朔弥…」

「孫…い、ち…さ…」

「なんだ、おい、どうした」


口をおさえしゃがみ込む朔弥。
兼続と幸村はどちらに対応すべきか困っているのか、まだ呆けているのか、交互に三成と朔弥を見ている。


「……い」

「あ、どうした?」

「気持ち、悪い…吐きそ…う」


そのまま朔弥を抱えて走る孫市。
これは後でねねの説教があるぞ。

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