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「私、雑賀抜ける」

「…あ?」

「えっ」


仙人の所に行く前に孫市に用があるから行きたいと申し出てみたところ、案外あっさり了解してくれた。
しかし、いや、やっぱりというべきか、抱き抱えられての移動は恥ずかしかった。


「い、今なんつった?」

「雑賀抜けるって言った」

「ほ、本気…か?」

「嘘でそんな事言える程肝は座ってないよ」

「ちょ…まさか朔弥さん、妲己に操られてた責任で辞めると仰るんで?」


酷く焦った様子の二人。
それは誰しも朔弥が言うとは思っていなかったセリフだからだ。
朔弥は銃を扱うようになってからの月日は浅いが、目を見張るものがある。
現に雑賀では孫市に迫る勢いがあった。
その才は秀吉やその妻のねねも認め、側に置きたがるほど。
それだけではない、他の大名からも朔弥が一人で傭兵家業をやろうと思えば引く手数多だ。


「…手がね、動かないんだ」

「そ、そりゃ治ってないんだし」

「あれだけの大怪我だったんです、今動かないだけで抜けるのは…」

「多分、もう動かない。動いたとしても銃は握れない」


酷く朔弥の声が落ち着いているのが妙に恐ろしい。
朔弥と仲のいい者はこのところ朔弥が不安定だといっていたのは知っている。
三成にも何やら強く出たらしい。


「…抜けて、どうすんだ?」

「ちょっと本気ですか?」

「……わかんない。でも雑賀にはいれないでしょ?銃、扱えないんだし」

「…とりあえず、その話は保留な。その怪我が治ったら続きだ」


孫市が辛そうに溜め息を吐いたを見て朔弥は頷いた。
左近は相変わらず困惑した様子で孫市と朔弥を交互に見ては何か言わねばと口が微かに動いている。


「ごめん、孫市」

「…謝んな、そうなったのはお前のせいじゃない」

「……私、孫市に恩返せないの、それが悔しい」


朔弥がそう言うと「仙界の人に呼ばれてるらしいから行くね」と左近に抱えられて朔弥は行ってしまった。


「…馬鹿野郎」


謝らないといけないのは俺だよ。
銃を持たせて、それで食わせようとした俺が悪かった。
そうしないで秀吉かそこらの里に置いたら普通に暮らせた。
それにもう恩なら返して貰った。

孫市はただうなだれた。

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