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「悟空」

「あー?」

「案内できる?妲己のとこ 」


案の定朔弥が悟空を呼べばすんなり顔を覗かせた。
あの時以来日中は朔弥の部屋の屋根にいる悟空。
朔弥に「お前はストーカーか」と言われたが、悟空にはその意味が分からないし、朔弥かまヤメロとも言わないのでそのままそこに居る。
そこに居ると朔弥が暇になると暇つぶしに悟空と会話する。
悟空は別段連合に溶け込めないと言うことはないが、朔弥の側がなぜだか居心地が良かったからいただけ。


「まー、わかるっちゃあ、わかっけど…」

「何かあるの?」

「お前歩くの大変なんだろ、まだ。それに妲己達がいる所は結界が張ってあるから普通の人間行けねえぞ」

「ある程度ゆっくりなら問題ない、結界が少し厄介だけど案内して」

「…その格好でか?」


朔弥の格好は寝間着、養生中なのだから当たり前と言ったら当たり前なのだが。
その格好で出歩くのはよろしくない事くらい悟空にもわかる。
しかし今の朔弥は一人では着替えられない。
いつもガラシャかねねが着替えを手伝っていた。
流石にその時は悟空も姿を消していた。


「そこに上着があるからそれを羽織る。着替えは無理だし」

「距離あるぞ?」

「いざとなれば悟空、よろしく」


朔弥には行かないという選択肢はないらしい。
溜め息を一つついた悟空は朔弥を案内することにした。




「朔弥ちゃん!!」

「妲己、久しぶり」

「ちょ…その腕!どうしたの!?ああ顔にも傷がついちゃってるし…なんで悟空が朔弥ちゃんと一緒なのよ!」

「悪いな妲己、俺様離反してこっちにいんだよ」


妲己の囚われている牢は他の者がいない。
皆バラバラに収容されているらしい。


「まー!!良いご身分ですこと!ちゃっかり裏切って朔弥ちゃんの護衛のつもり?あーあー、嫌になっちゃうわー」

「…なんだ、意外に元気そうっ安心した」

「……朔弥ちゃんは、思ってたより怪我が酷いわ」

「ねー、私本格的に役立たずになっちゃった」

「腕、動かない…の?」


うん、多分もう動かないかな。と朔弥は頷いた。
あのころと変わらない顔で普通に対応する朔弥がなんだか痛々しい。
この格子がなければ腕を伸ばしてその腕をさすってあげられるのに。
それが無性に悲しくて、虚しくて涙がでそうになる。


「妲己、あのね。私、返しにきたんだ」

「…何を?私、何か朔弥ちゃんにあげたっけ?あ、着物?」

「いやいやいや、これ」


動く腕で耳の辺りを探り、光物が朔弥の手の上に落ちた。
それは武器や術を使うのに力を変換する為に与えた耳飾りだ。
それを妲己に手のひらを広げさせ、その上に乗せた。


「返すね、それ」

「…もう、こんなの返さなくても良かったのに……」

「あと、御免ね。私、こんな怪我しなかったら私が妲己捕縛できたのに」

「朔弥…ちゃん?」

「そうしたら…無理かもしれないけど、仙界の人に許しを乞えたかもしれない」


やっぱり私は役立たずだね。
笑う朔弥がこれほど可哀想に思えたのは後にも先にももうないだろう。

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