「死に損ない、見舞いだ。有り難く思え」
案の定見舞いと称して来る人間に怒られた。
孫市には「馬鹿は雑賀にゃいらねえ!」と鼻水を垂らしながら叱られ、それをガラシャがなだめるという不思議な光景が見えた。
兼続には「お前には愛が足りないのだ!」となんとも不可解なお言葉を頂いた。
幸村には「もう駄目なのかと思いました…」かくなる上はこの幸村、朔弥殿の後を追いましてあの世までのお供をしようかと思いました。となんとも道連れ的な台詞。
秀吉とねねは仲良く「目が覚めてよかったな」「あとは熱が下がって、肩がよくなるばかりだね」とニコニコしていた。
そして今目の前にいるのは三成だ。
丁寧に見舞い品があるが、口調は荒い。
「…お心遣い、感謝いたします」
「なんだ不満か」
「いえ、別に」
「何か言いたい事があるようだな」
「しつこい男性は嫌われますよ三成殿」
これには三成は言葉を失った。
久しく朔弥と口をきいていなかったが、以前の朔弥はこんな棘のある言い方をする人間ではなかった。
「だから三成殿は世渡りが下手なんですよ、清正殿や正則殿から嫌われるんです」
「何が、言いたい」
「もう少しいたわりの言葉があってもよろしいのではないですか?」
体を起こし、撃たれた肩を庇う為に腕を吊っている状態。
戦中のあの様子に比べたら顔色も表情もいい。
表情に関していうならば、雑賀にいた時よりも豊かだ。
「そうだな、自分勝手に突っ込み、負傷した挙げ句、左近に抱き抱えられて城に帰ってきた姫だものな」
「ええ、どこかの誰かさんに傷口を抉られなければ左近殿にお世話になることもなかったかと」
「なに、自分の限界を理解せず突っ走り、周りに迷惑をかける人間を止めただけの事。気にすることはない」
「まあ、あの戦で私結構な功績をそれなりに上げましたから私」
その様子を外が覗いていた悟空はただならぬ空気を感じた。
自分の知る限り朔弥は多少毒は吐いたものの、愛嬌ですむ程度。
あそこまで朔弥が毒を吐くのは見たことがない。
そして朔弥を見舞いにやって来たあの男も男だ。
見舞いに来たクセに朔弥に毒を吐いている。
「その分では回復は早そうだな」
「回復は早いかもしれませんがもう戦には出られないでしょうけど」
「ほう、それでは願ったり叶ったりではないか。お前が以前からそう願っていた…おい、それはどういう意味だ」
「そのままですよ、肩は恐らく使い物になりません。銃を扱うことも、何かを持つことも」
まあ、この医療技術じゃわかりきったことなんですけど。
そう明るい声で自分の動かない腕を見る朔弥。
三成も悟空も聞き慣れない言葉であったが、朔弥が動かないというのであればそうなのかもしれない。
戦国の世であれば、命が助かっただけでも有り難い。
何しろ銃で撃たれたのだ。
「あーあー、もう本当に役立たずになってしまいました」
「べ、別に銃が扱えずとも…」
「それこそ雑賀に身をおけません」
「女中など…」
「片腕が不自由で何ができますか」
「…嫁入りか?」
「正真正銘の傷物を欲しがる殿方はいないでしょう。もし居たとしたら物好きにも程があります」
ずっと下を向いたまま、声を震わせどいた。
悔しいのか、悲しいのか。
恐らく両方で声が震えている。
涙を拭う仕草が見えないのはまだ涙がこぼれていないからだろうか。
「皆、馬鹿ですよね。私なんか心配しちゃって…」
「一番馬鹿なのは、お前だろう」
「…そうです、一番馬鹿なのは私なんですよ。皆さんから貰った厚意を返せない、馬鹿は私なんです」
その時見えない朔弥の目の辺りから何かが落ちたのが見えた。
それは形を変えて朔弥の手の上に転がっている。
「私なんて、戦で死んじゃえば良かったんだ」
こんな時、幸村や兼続、左近はどうするのだろうか。
頭が微かに揺れながら涙を落とす朔弥たた三成は見つめていた。
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