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「二人目の捕縛者です」


流石に卑弥呼同様に抱えて運ぶのは無理。
術で移動したものの、慶次はごろりと投げ出された。
それを見ていた本陣の者は驚きを隠そうとはせず、ただ口をあんぐりと開けていた。


「存分に暴れていらっしゃるようで、勇ましいですね」

「それが今回の私の仕事ですから、諸葛亮殿」

「あちらの将がいきなり襲撃を食らうのでいい混乱材料です」

「お役に立てて光栄です、それでは保護をお願いします。私は戻ります」

「おい、ちょっと待てよ。お前手当て受けていかないのかい?」

「いい、いらない。慶次大人しくいいこで待っててよ、暴れるとか無しね」


なにも言わない諸葛亮に朔弥の心配をする慶次。
諸葛亮にしてみたらさっさと戦場に戻り引っ掻き回して貰いたいのだろう。
いつ寝返るかわからない人間であるが、戦果はそれなりにあるのだ。
朔弥が戻ろうとすると不意に手を取られた。
誰かと思って見てみれば、それは左近。
どうにも怒ったような、恐ろしい顔をしている。
朔弥に有無を言わせずに左近は朔弥を引っ張り、救護の張りへと足を進め、強制的に朔弥を椅子に座らせた。


「手当ては不要です」

「そんな身体で何ができるって言うんです?」

「まだ動けます」

「手当てをした方が動けますよ」

「私は忙しいんです、こんな事してる暇、ないんです」


溜め息をついた左近は血の流れ出す傷口をこれでもかと強く握れば、朔弥は呻き声を上げた。


「な、なにするんですか…っ」

「聞き分けのないお嬢さんに自分の状況を理解していただきましょうと思いましてね」

「………」

「ああ、こんなに深くやられて…おや、頬も切れてますね。あの慶次さんにやられてこれだけですむとは、相当なお手前なようで」

「…違います、慶次、私相手だから手を抜いたんです」


おや、慶次さんとお親しい様子で。と聞けば朔弥はポツリポツリと話した。
あちらの軍に居たときに世話になったこと、馬に触らせてもらったこと。
話していると意外と朔弥は前の朔弥のままで、大人しかった。
今までの態度は朔弥なりに無理をして演じていたのだろう。
手当てが終わるとすぐさま行こうとすると、左近とは別の女性の声が朔弥を引き止めた。


「女カさん…」

「何か私に用でしょうか」

「そのように身構えずよい。なに、朔弥の負担をとってやろうというだけのこと」

「女カさん、貴女ご存知だったんですか?」

「私とて仙人だ、これくらいこと分かるのは容易い」

「…お気持ちだけで結構です」


朔弥はすぐに女カから目線を反らし、出て行こうとするが女カによりそれは阻止された。
左近の時と同様にまた強制的に椅子に座らせられてしまった。


「私の厚意が受けられないか?」

「必要がありません」

「命が消えてもか?」

「構いません」


朔弥は知っていたのか。左近は内心驚いた。
そして朔弥が死のうとしていることにもこの時初めて気づいた。
だから諸葛亮の提案した無謀としかいえない策にのり、命を削るといわれる行為をやめない。
それに態度もおかしかったのだ。
常に関わらない様に努力し、素っ気ない行動を繰り返した。


「私は、生きようなどと思っていません」

「…私は他の者がお前をどう思っているかなど知ったことではない。ただ私はお前を気に入っているのでな、死なれては私が困るのだよ」

「では、私に女カ殿の為に生きろとおっしゃるので?」


まあ、それもいい。と朔弥の輪郭をなぞる女カ。
なんとも色っぽく、情事をするかのように動く女カの手を左近は目で追うしかなかった。


「そもそも私を気に入るという意味が理解できません、お遊びなの相手であれば左近殿に頼まれてはいかがか。私は行かなければなりません」

「男など、汚らわしいだけではないか」


朔弥は話にならないと女カの手をはねのけ、また姿を消した。
その場に残ったの左近と女カの二人。
左近はただ呆気にとられ、女カはなんとも言えない顔で朔弥の消えた方向を見ていた。

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