「卑弥呼」
「朔弥ちゃん…無事やったん?」
交戦が始まると同時に術を使い、卑弥呼の目の前に現れた朔弥。
卑弥呼がいるそこには敵兵の真ん中。
朔弥に仲間はいない。
「ほんまの…ほんまの朔弥ちゃんやね、そうやね?」
「うん、私だよ卑弥呼」
敵兵に動揺が広がる。
遠呂智の軍で勿論朔弥を知らない者などいない。
しかし朔弥は先の戦で連合に捕縛された。
その将が目の前にいるのだ。
「うち、心配しとったんで?妲己ちゃんもや。お猿も…」
「そう、ごめんね」
朔弥が両手を広げ、卑弥呼を招き入れるようにすると卑弥呼は引き寄せられる様に朔弥に近づく。
卑弥呼の配下である兵達はどうしたらいいかわからず、ただ戸惑うばかり。
傍観している他なくしていると、卑弥呼は朔弥に抱き付き、遂には泣き出した。
「堪忍、堪忍な朔弥ちゃん。うち守れへんかった…朔弥ちゃんはうち助けてくれたのに、ごめんな、ごめんな」
「…謝らないで卑弥呼」
「朔弥ちゃん、一緒に頑張ろな。妲己ちゃんにも知らせたらな」
「ごめんね、卑弥呼。それはさせてあげられない」
「え………?」
安心しきった卑弥呼に朔弥は手刀で卑弥呼の意識を奪う。
突然のことに混乱する間を与えず意識を失う卑弥呼にそれに対応できない配下達。
「な、なにをなさいます朔弥様…」
「私を様を付けて呼ぶな馬鹿者」
「……は?」
「私は既に敵将だ、敵将を様を付けて呼ぶやつがどこにいる」
先ほどまでの優しげな顔は消え失せ、朔弥の顔は厳しいものになっている。
自軍にいた時から朔弥は温和な顔をしながらも覇気があった。
それはどうやら今も健在のようで、朔弥が現れて誰も動かなかった理由が分かった。
動かなかったのではなく、動けなかったのだ。
言葉にならない覇気で兵の動きを止めていた。
「お前達の将は私の手の内だ。下手に動けば卑弥呼を傷つける結果になる」
「わ、我らにどうしろと…?」
「このまま引くもよし、それとも卑弥呼と共に捕縛されるか」
どちらがいい?
なんとも冷たい表情で兵を威圧する朔弥。
その威圧に耐えきれなくなった下級兵がバラバラと逃走しはじめると、蜘蛛の子を散らすように兵はばらけた。
「ごめんね、卑弥呼」
卑弥呼に一言謝ると朔弥は再び術で本陣に帰還した。
「諸葛亮殿、捕縛者です」
本陣にて軍略を巡らす諸葛亮の前に卑弥呼を置く朔弥。
その行動に驚いた諸葛亮は目を見開いて、卑弥呼と朔弥の顔を交互に見た。
「捕縛いたしました、保護をお願いいたします」
「…これはまた、お早い捕縛ですね」
「動くのに早いに越したことはございません」
次に行かねばなりませんので、卑弥呼をよろしくお願いいたします。と諸葛亮に礼をとると、朔弥は再び術で姿を消した。
「ほう、もう捕縛しおったか」
「そのようですね」
「朔弥、もっと捕縛するつもりならやめさせた方がよいぞ」
その様子を離れた所からみていた左近と伏犠は卑弥呼を見ながら話していた。
「何故です」
「そもそも朔弥の使う術も武器も、あれは仙人の使うものじゃ。その力を与えたのが妲己ならばその庇護がない。なければ己の命を削りながら使う他ない」
「…は?」
「あの耳飾りはな、妲己の力を朔弥に与え、次に武器や術に変換する道具。その力の源がなければ朔弥の命が燃料になる」
その言葉を聞いた左近は朔弥を知る者に伝令を出すために急いだ。
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