「それでいいですね」
諸葛亮は優しいとみせかけた声色で朔弥に圧力をかけた。
朔弥は軍師殿の言うことに異論はない。
「……ええ、」
「お待ちください!それでは朔弥殿に死ねとおっしゃるも同然ではありませんか!」
「何を興奮なさるのです幸村殿。これはそちらの軍師殿も了解くださった決定事項ですよ」
「そんな…左近殿がそのような…」
「お話はそれだけでしょうか」
「はい、次の戦、頼りにしておりますよ朔弥殿」
「精進いたします、それでは失礼」
退室しようとする朔弥に対して幸村はその場に立ち尽くし、下を見つめるばかり。
それに気付いた朔弥はそっと幸村の手を取って退室した。
その場には諸葛亮以外の軍師もいたが、何も言葉を発さなかった。
その場に左近もいたが、彼の場合何も言えなかったのだ。
いくらその案に反対したところで結果は変えられなかったからだ。
決定に反論しても効果はない。
「幸村殿、今後一切もう私を庇わないでいただきたい」
「何故です!あれは…あれではあまりにも朔弥殿が」
少し歩いて幸村の手をはなした。
朔弥の後ろにいる幸村の顔は見ずに朔弥は言葉を続けた。
「私はそれだけの事をした、その報いだ」
「朔弥殿は妲己にいいようにされていただけではありませんか!」
「それでも!私のしたこと、やったこと、言ったこと。変わりはしません」
「その報いで戦場の前線に…軍も与えられずに一人で…しかも軍略も聞かされずただ戦えと言われてよろしいといわれるか!!」
「…それでも、いいんです」
それがいいんです。
朔弥が消えそうな声で呟いた。
ゆっくりと幸村に向き直り、久しぶりに真っ直ぐと彼を見た。
幸村はとてもいつも凛々しい青年には見えず、今にも泣いてしまいそうにしている。
朔弥はいつも少し眉間にシワを寄せ、無愛想にしていた顔を柔らかくさせて柔和に笑って見せた。
「どうか幸村殿、貴方が心を痛まれる事はないんです」
「…朔弥、殿」
「…この話は誰にも言わないと約束していただけますか?」
「ですが…」
「皆さん、お優しい方ばかりです。ですから無闇に幸村殿の様に悲しませたくないんです」
その行為が皆を悲しませることは承知のうちだと朔弥は悲しそうに幸村に笑って見せた。
本来朔弥はそんなに笑う方ではなかったが、たまに見せる笑顔はとても可愛らしくて幸村は好きであった。
しかしこの世界にきてから朔弥は笑うどころか言葉もあまり発しない、表情も面に出さなかった。
特に幸村の前ではそれが顕著で、避けていた。
朔弥からしたら幸村に殺すと言ったことが起因している。
「どうか、お願いします」
「………」
「…そして、幸村殿に酷いことを言いました、すみません」
朔弥は幸村に一礼するとその場から自室へと帰った。
ただ、立ち尽くす幸村をのこして。
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