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「こちらが鍛錬場です」


案内された先はとても広い道場とも、広場ともとれる所。
そこには何人もの兵士達が鍛錬を行っている。
蜀の兵だろうか、趙雲を見ると深々と礼をとった。


「私は少し兵達に稽古をつけます、朔弥殿は見学なさるとよろしいでしょう。体の方も本調子でないでしょうから」

「ええ、そうさせていただきます」


朔弥の武器の所持は許可されていない。
鍛錬場にいてもすることはないが、見ている分にはある程度面白い。
問題なのは朔弥を見る者達の視線だ。
やはり朔弥を快く思わない者は多数いるのは事実。
しかしだからと言って朔弥もそれを取り除こうとはしないで、成り行きにまかせている。

居心地が悪いのにはこしたことないのだが。

これはどうしようもない。そう決め込んで鍛錬場の隅を歩きながら鍛錬の様子を見ることにした。
朔弥の靴は踵が高く歩くとコツコツと音を立てるのだが、鍛錬をしている所ということもあり、その足音は鍛錬中の兵の声に消える。
もし、もしの話だ。
妲己に捕まらず、知り合いでなくともこちら側の人間と共に行動をしていたら自分は溶け込めていたかもしれないと思ってしまう。
嫌がる私を引っ張ってでもここに連れてきたに違いない。
そう思うと溜め息がもれた。


「…未練…てやつなのかな」

「朔弥殿、お加減はよろしいんですか?」


朔弥が独り言をもらすと、後ろから声を掛けられた。
その声は通る張りのある声で、よく朔弥を心配してくれた青年声だ。
彼はよく朔弥を気にかけてくれるのだが、今の朔弥には重いのだ。


「…ええ、少し城内を見て回ろうかと思いまして」

「左様でしたか。此方にはお一人で?」

「…趙雲殿に案内いただきました」


彼は、幸村は人がいいのか頭をいじられていたとは言え自分を殺そうと躍起になっていた朔弥に以前と同じく親しげにしてくれる。
幸村だけではない、知り合いであった者は全てそうだ。
ワザと目を見ない朔弥に対して、優しく話しかける。


「朔弥殿も鍛錬されますか?」

「…いえ、私は」

「朔弥殿」


不意に声を掛けられた。
声のした法を二人で見ると、礼をとる青年が一人。
顔は青年よりの少年、といったところか。
彼は軍師殿の所にお越しくださいと一言告げると早々に姿を消した。


「朔弥殿、軍師殿達の使われる部屋はご存知ですか?」

「…いえ」

「それではこの幸村、ご案内いたします」


幸村は近くにいた兵に自分の持っていた槍を預けると、朔弥に此方です。と歩く様に促した。

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