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ああ、もうこれで私も立派な人殺しになってしまった。
私の撃ったあの男の家族は私を恨むだろうか。


「どうだ、勝利の美酒は」

「最高に最悪」

「あ?俺とお前、みんなで勝ち取った勝利だぞ?」

「人を殺した。感触はないけど間違いなく私はその人の人生を奪った。でも、」

「でもなんだ?お前がやらなきゃ、こっちの誰かが死んでった。それはお前かもしれないし、俺、秀吉かねねだったかもしれない」

「…一番最悪なのは、こんなに美味いと思う酒が今だから」


それが一番最悪だ。
今まで日本酒なんて飲んだところで舐める程度だった。
この酒が良いものだからじゃない。
そう思うと無性に腹が立った。
何人もの人間の命奪っておいて、それから飲む酒が美味いと感じるなんて、卑しい、最低。


「どうして皆、そんなに嬉しいの」

「そりゃ、勝ったからだ」

「人がいっぱい死んだのに?自分も傷だらけなのに?私は飛んできた矢がかすった傷でさえ痛いのに…」

「それ以上に守りたいものを守れたから、嬉しいんだ」

「守り…たい、もの」

「それは人によって違う。家族だったり領地、仲間に絆だ」

「私には無いものばかりだから、よくわからない」


孫市はため息をついた。
朔弥とは付き合いはまだ浅いが大体どういう人間かというのはわかり始めた。
悲観的なのだ。
さてどうしたものかとまた溜め息をつくと朔弥が小さく謝った。


「あ?なんで謝るんだよ」

「その溜め息は私にむけられたんだろうから。私は前から人に溜め息をつかれるんだ、私が期待された通りに動けなければ言葉もでない」


そうか、コイツ自分でどうしたらいいのか分からないのか。
孫市はなんとなく分かってしまった。
変わらねばと思っても変われない自分。
どうしたいのか分からない心にぶつけられない葛藤。
苛立ち。
叫ぶこともしなければ、暴れられない。
吐き出す場所がないから溜める。
溜めて溺れる。
だから消極的なのだ、自分を傷付けないために。
流されれば人のせいに出来る。
そこで人のせいにしたら楽になれるのに、下手に良心が邪魔して人のせいにできないんだ。
そう思うと孫市の手が自然と朔弥の頭を撫でた。
朔弥は黙ってされるがまま。


「朔弥殿ー」

「…幸村か?お前と知り合いなのか?」

「一方的な約束していった人」

「ああ、孫市殿もご一緒でしたか。お二人もこちらで飲みませんか?朔弥殿に紹介したい方々が」

「あー、俺は秀吉んとこいくから朔弥、お前一人でいけ」


朔弥が抗議しょうとするのを無視して腕を掴んで立たせ、幸村に押し付けた。
朔弥の持っていた杯に少し残っていた酒がこぼれたが知らん顔を決め込んだ。
幸村も「ご案内いたします」と朔弥を軽々と引きずっていった。
流石あれだけの槍を振り回す男なだけある、若いし。

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