ああ、イライラする。
なんで私がこんな思いをしなければならないのか。
朔弥は酷く眉間にシワをよせている。
その原因は先日の人質の少女。
少女は朔弥の顔を見るなりパッと明るくなり、「朔弥、朔弥ではないか!」と喜んだのだ。
また“朔弥”だ。
それに気分を害した朔弥は少女を無視して、その後の事を配下に任せて帰ってきたのだ。
元々その仕事も悟空の手伝いで行ったものだ。
悟空がまたヘマをしなければ人質二人の仕事は十分達成できるはずだ。
「なんだ朔弥、そんな顔して。きれいな顔が台無しだぜ?」
「…慶次」
「ん?なんだ、どうしたンだい?」
少し悩んだ風にすると、前方にいる慶次に少し遠慮した様に抱き付いた。
朔弥の予想外の行動に思考を暫し停止させたが、朔弥の頭を優しく撫でた。
「なんかあったか?」
「さっき、ね。悟空の手伝いにでたんだ」
「ああ」
「そこで、さ。また私…誰かに」
「孫市んとこの“朔弥”か?」
「…ん。そんなに私、その雑賀に似てる?」
「おお、そっくりだ」
ふうん。溜め息ともなんとも言えない、覇気のない声を漏らした。
どうしたのかと朔弥を伺うように見詰める慶次。
すると慶次に抱きついていた朔弥は両手をダラリと力なく垂らして後ろに下がった。
いつもの勝ち気で強気の朔弥ではく、どことなく気落ちしている。
「なんだ、気にしてんのかい?」
「なーんか…腑に落ちないっていうか…アイツ等私見て嫌な反応するし」
「んなこと気にしなさんな。朔弥は朔弥なんだ、周りに何言われようがそのまんまでいいんだよ」
「………んー…」
伏し目がちになっていた目を、頭の位置をそのままに朔弥は慶次を見るように上目遣いをする。
暫くジーッと見つめ、ふんわりと笑った。
「そうだよね、私は私でいいんだよね。雑賀とか関係ない!うん」
「そうだ、朔弥は朔弥だ」
「うん、ありがと慶次」
そうだそうだ!と元気を取り戻した朔弥は今度慶次にお礼するね!と走って何処かへ姿を消した。
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