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「幸村のやつに面を割られたそうだな」


ぼんやりと外を眺めながら茶を飲んでいると政宗がニヤニヤと朔弥に話しかけてきた。
外と言っても2つの世界が融合した、ゴチャゴチャとした統一性のないものだ。
でも朔弥はその統一性のなさが好きだった。


「…ああ、割られた」

「不満そうじゃな、ワシにも茶を寄越せ」


何をしたいのかわからないが、せがまれるままに茶を煎れてやった。
いつものなら給仕の者が側にいるが、朔弥は一人でやりたがるので給仕は茶の世話をしない。
その茶も凝ったものではなく、非常に質素。


「朔弥の茶は美味いな」

「そう」

「そんなに気落ちするな、朔弥。なんならワシが面の仇を討ってやろうか」

「そんなことしてもらわなくて結構。そのくらい自分でやるよ」

「なんじゃ、可愛げのない女じゃ」


普段はこんなに無愛想ではない朔弥。
余程幸村に面を割られたのが辛かったのだろうと政宗は思った。

孫市のところにいた朔弥と被るところが多すぎる。
あの朔弥は最初こそ心を開かなかったが、次第に心を開いてくると可愛らしいところもあった。
茶の煎れ方を教えてやれば、よころんで教わっていた。
今目の前にいる朔弥は、政宗が雑賀の女に教えた事と同じ様に茶を煎れている。


「お前は何者じゃ、朔弥」

「何者って…私は私だよ、政宗」

「妲己の元に身を寄せる前は何処で何をしておった」

「さあ、覚えてない」

「おぬし、雑賀の朔弥ではないのか?孫市はどうした」

「ねえ、政宗。その雑賀なんて私は知らないの、いい?だいたい誰、孫市って」


深い溜め息を朔弥がついた。
ウンザリなんだよ、その話題。そう言いたそうな溜め息だ。

朔弥は過去の話をしない。
出身は何処かと聞けば知らない分からないの一点張り。
最初こそ隠しているのではないかと思ったが、次第に分からないのではないかと思い始めた。
妲己が朔弥の記憶を操作している…?何の為に?
そう思いだすと疑問が次々と頭に浮かぶ始末。
こちらとしては味方が多いに越したことはない。
しかし、本心から遠呂智の復活を願っているのかわからない輩は邪魔だ。
しかも朔弥は術を使う事のできる者だ。
その力があちらに加担したらそれなりになる。


「朔弥、お前は遠呂智の復活を願う同士、それで間違いはないな?」

「馬鹿にしてるの?私の意義も理由も全てはそこにある」


やはり雑賀のとは違うのか。
あの女はこんな妖艶に笑いなどしない。

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