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いつの間にこんなモノができたのか。
朔弥はその建物を前に足を止めた。

あの二人が来てからここは騒がしくなった。
単純に人員が増えたのだから不思議ではない。
あの伊達政宗は大名で、配下に何人もいるのだ。
その頭がいるのだ、騒がしくなって当たり前。

人は移動に馬を使うと聞いていた。
それがこの小屋にいるのだろう。
ここの者は馬を使わない。
移動は大抵徒歩。
妲己や朔弥などは術を使えば瞬時に移動できるが、他の者は使えない。
故に朔弥にとって馬は珍しいのだ。



「…ねえ、この馬は慶次の?」

「ん?ああ、そうだ。松風ってんだ」

「他の馬より大きい…」


小屋の中には慶次が一際大きな馬を触っているところだった。
慶次が大きいので馬とそれにあわせて大きくなければ馬の方が潰れてしまうのだろうか。


「触ってもいい?」

「おう。でも松風は少し気が荒いから気を付けな」


朔弥が恐る恐る触ると、松風は思いの外大人しく触らせてくれた。
主が側にいたので大人しくしていただけかもしれないが、朔弥にとってはそれで十分だった。


「こんな馬に乗ったら、きっと見晴らしがいいんだろうね」

「さぁな…俺は見慣れてるからなんとも言えねぇな。朔弥、乗ってみるか?」

「…いい、遠慮しておく」

「遠慮すんなよ、朔弥」

「私さ、馬乗れないんだ」

「乗れないなら俺が乗せてやるよ」


少し待ちな。と手際よく松風に手綱と鞍をかける慶次。
そして松風を外に連れだしながら朔弥の手を引いた。
松風は大人しく、慶次の指示に従い動かない。


「ほら、ここに足を掛けて」

「…ん。こ、こう?」

「そうだ。でだ、体重を前に掛けてよじ登んな」

「ぅんっ。……んんっ、無理、駄目」


ないだい、力ないねえ。と慶次は朔弥を見て笑った。
朔弥はけして力が弱いわけではない。
ただ、力のかけ方がよくわからいだけなのだ。
それに台がないというのもある。


「ほら、もう一回足かけてみな」

「無理だって、慶次。さっき見たでしょ?」

「今度は大丈夫だ、ほら」

「…うん。よっと…」

「そらっ!」


朔弥は小さく悲鳴を上げた。
慶次が朔弥の腰を持ち上げ、鞍に腰を下ろさせたのだ。


「ほら、乗れただろ」

「本当だ…慶次に乗せてもらったんだけどね」


そして朔弥は松風からの目線の高さに喜んだ。
凄い、高い!
これで走ったら世界が違ってみえるかな?
子供のようにはしゃぐ朔弥に慶次は「そいつはよかった」と豪快に笑った。


「そうしたら今度乗せて走らせてやるよ」

「本当?」

「まあ乗るのに四苦八苦してた朔弥を一人でってのは無理だから、俺の後ろか前だけどねえ」

「じゃあ、約束ね。私馬に乗って走ってみたかったんだ」


一瞬、孫市に紹介された朔弥と被って見えて慶次は内心狼狽した。

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