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「いってきます」

「気をつけろよ。いいか、生水は飲むなよ、山賊に気をつけろ。今回は一人だ」

「何回も聞いた。警戒は怠らない。戦に出るときの心構え。知り合いの武将に頼らない。なるべく遠くまで行って戦功を立てること」

「それ程心配するならば修行など出さなければいいものを」

「…政宗」


門の前で延々と注意事項を並べる孫市に、それは何度も聞いたと呆れる朔弥。
そんなやりとりを門番は苦笑いで見ていた。
あの有名な雑賀衆の頭領がクドく、しかも親か兄のように世話を焼いているのだ。
微笑ましいような、そうでないような。

普段着の格好の孫市に対して朔弥は戦に出向くかの様なしっかりとした格好。
そして傍らには馬。

そんな二人を見てやってきたのが城主の伊達政宗。


「ほう、それなりの格好になっておる」

「おかげさまで。新しい着物ありがとう」

「なに、気にすることはない。いつか返してもらう恩でもあるからな。ついでに餞別じゃ、その馬と外套も付けてやるわ」


ほれ。と投げ渡された包み。
広げると、色は黒という質素なものながらも布と作りはしっかりとしている。
これならば寒さや雨、雪も軽いものならば凌げそうだ。


「こんなに…いいのか?雑賀っつっても、朔弥はまだ伊達んとこで働かねえぜ?」

「投資というやつよ孫市。これで成長し、腕が上がればいつかはワシの力になろうが」

「先を見据えてってやつ?」

「そういうことじゃ」

「…ありがとう。期待に添えるように努力する。…どうなるかまるでわからないけど」

「先の事など誰も分からん。それでいい。死ぬな朔弥」

「話飛びすぎ…」


一呼吸置いて三人で笑い、朔弥は「行く」と馬に跨った。

先がどうなるか誰にも分からない。
確かにそうだ。
今はただ、進むしかない。
野垂れ死んでたまるか。
自分の為にと心を鬼にまでしてくれた人の期待に背いてはいけない。
それだけが朔弥の思考を占拠した。

これから始まることに不安を抱きながら。





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