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「よいか?」


いきなり言い渡された一人旅という名の修行。
行きたくないが、抵抗したところで投げ出されて終わりなのは何となく感じてとれた。
だから朔弥は渋々ではあるが了解し、折角解いた荷物をまた結んでいる。
溜め息も意識しているわけではないが、とめどなく出てくるのが嫌という程分かってしまう。
そんな折り、襖を叩いた後に若い男の声が聞こえた。


「政宗様…どうしてこの様な場所に」

「堅苦しいのは無しじゃ、朔弥。様などつけんでいい」

「いや…しかし」

「孫市同様呼び捨てで構わぬ。敬語もいらん」

「…」

「わかったな」

「え…」

「よいな」


有無を言わさぬ威圧感と迫力で朔弥は無言で頷いた。
しかしそんな雇い主がいるだろうかと考えたが、十人十色という言葉あるのだ。深く考えないのが得策だと自分に言い聞かせた。

朔弥がしっかりと正座して政宗と向き合っていると、政宗はどかりとその場に胡座をかいて座り込んだ。


「あ、座布団」

「要らぬ。して朔弥」

「はい…」

「孫市はあれで悩んだ」

「…は、はあ」

「お前の修行の事じゃ」


孫市は散々ワシに相談してくさった。
やれ朔弥はもっと世間を知るべきだ。戦の才能はあるが、一人で生きていけない。頼ることしか知らない。野心がない。精神が弱い。
政宗の口からでる多くの朔弥に対する言葉。
どれも朔弥に突き刺さる言葉だったが、それと同時孫市は何かと自分を心配していたのを改めて実感した。

最初の頃は変な男だと思った。
赤の他人である自分を何かと心配してくれた。
兄の様に、親の様に。
いつからか仲間になっていた、家族だった。
そして兄であった。


「じゃから、孫市を…な、何を泣いておるか」


言葉を止めた政宗の前には下を向いて涙を落としている朔弥。
声を上げるでもなく、肩をふるわせ、握り拳で耐えている。

朔弥はその政宗の言葉で自分が泣いていることに気付いた。
ああ、だから視界が歪むのか。
だからこんなにも手に力が入るのか。

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