「なあ朔弥、政宗って知ってるか?」
「独眼竜伊達政宗?」
「おう」
孫市と会話が許されて数日。
一度だけガラシャはどうしたと聞かれた。
朔弥は「ガラシャはやるべき事があるから行ったよ。孫市に会ったら行けなくなるからって、会わずに」と言えば少し意外そうにしてから「そうか」と言って黙ってしまった。
「北の、越後よりも寒い所のえらい人」
「実はな、そっから話がきてる」
「次は奥州?」
独眼竜といえば、凄いカリスマ性があったとか聞いたことがあった。
正直そこまで詳しくはないが名前くらいは知っている。
右目だか左目を病気で無くしている。
そうか、次は奥州か。
冬はつらそうだ。
「お前は、どうする」
「なにが?」
「一緒に行くか?」
「…行く。また勝手に死にそうになられたら困る」
しばらくの沈黙の後に孫市は小さく「そうか」と言った。
孫市がどんな答えを期待していたのかは朔弥には分からなかったが、少し期待していたものと違ったのだろうなと予想はついた。
「…じゃあ、回復したら奥州に行くぞ」
「うん」
「また、ねねが小言漏らすんだろうな」
「おねね様、寂しいんだよ」
「朔弥が居なくなるのかな」
「孫市の事も嫌いではないと思うけど」
「思うだけかよ」
「思うだけ」
朔弥が小さく笑うと、それにつられるように笑う孫市。
事実ねねは朔弥を気に入っている。
ねねだけではない、秀吉も朔弥を娘の様に気に入っている。
できたら養子にしたいというのもあながち嘘ではない。
鉄砲隊が欲しいということも有るだろうが、何より朔弥が可愛いのだ。
朔弥も普通にしていたら、ただの、少しばかり背が高い女なのだ。
そんなことを何故か今更ながら思い出した。
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