「朔弥殿、ガラシャ殿と一緒ではないのですか?」
「…ええ、ガラシャは帰りました」
「帰った…?」
はい、自分の行くべきところに。
朔弥はなんとも力なく幸村に笑って見せた。
それを見た幸村は、不思議そうに「そうですか」と馬上で答えた。
「幸村殿、本陣帰還ですか?」
「はい、朔弥殿もですか?」
「はい」
朔弥が頷いて答えると、幸村は「それではご一緒しましょう」と馬から下りた。
自分に合わせず馬で行ってくれ。と朔弥が申し出ると、幸村はそれでは朔弥と話しにくいと笑った。
「そういえば馬に乗れるようになりましたか?」
「…い、いえ」
「それではまたお教えいたしましょう」
「……はい、お願いいたします」
「朔弥殿」
「はい?」
「馬はお嫌いですか?」
幸村にそう問われて、俯きながら歩いていた朔弥は顔を上げた。
朔弥自身は馬は好きだ。
見ているのも、触るのも。
馬の目はとても綺麗だし、穏やかだ。
ただ、自分の身の丈よりも少し低い位の馬の背に跨るのは少し難しい。
他の武将のように身軽に馬に跨がれたなら、朔弥も進んで馬の訓練をしようと思う。
しかしなから朔弥はそのように身軽に動く事ができない。
足をかける所があって、やっとよじ登れる程度なのだ。
「嫌いではありません、むしろ好きです」
「では、なぜ?」
「幸村殿のように、身軽に馬に跨がれないから、でしょうか」
「そんな、それくらい…」
「それは幸村殿が出来るから簡単に言われるんです。出来ない私にしてみたら、凄いです」
よじ登るくらいなら、なんとかできますよ。と朔弥は軽く幸村に言った。
それを聞いた幸村「そうですか」と軽く笑うと、朔弥にいきましょうか。と促した。
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