「わらわは、帰る」
「…どこに?」
「もう修行はおしまいじゃ、わらわは帰らねば」
ガラシャは朔弥に向き直って、いつもの笑顔はなく、真面目に朔弥を見詰めている。
その顔は本気で、少しもふざけた様子はない。
「孫市には、言わないの?」
「いったら、わらわは迷ってしまう。泣いてしまうかもしれぬ」
「…だから、戦が終わってから私に言ったの?」
ちがう。とガラシャは首を横にふった。
本当は孫に会って、自分で、自分の言葉でさようならを言いたい。
でも、きっと、孫の顔を見たら言えなくなってしまう。
ガラシャは小さく、しかしはっきりと朔弥に言った。
いつもの大きなガラシャの目は伏せられて、ガラス玉のような綺麗な目は水分を容以上に含んで今にも溢れそうだ。
「……急、だね」
「すまぬ、少し前から考えてはおったのだ」
「うん。それで旅費はある?」
「大丈夫じゃ、孫や朔弥には散々言われていたから路銀は足りるじゃろう」
「そう、なら、大丈夫だね」
金の管理に関しては孫市が散々ガラシャに言い聞かせていたのはよく見ていた。
ガラシャはお嬢様だからお金に疎く、それに関しては孫市は朔弥に変なことしないように朔弥も注意していろと再三言われ、朔弥もガラシャの金の管理には何度か口を出した。
「朔弥、わらわの我が儘を聞いてもらってすまぬ」
ガラシャはニコリと笑って、泥や返り血まみれの朔弥に抱き付いて、言った。
汚れるから。と朔弥がいうと「わらわも変わらぬ」と言い、それもそうだと朔弥もガラシャを抱きしめ返した。
「朔弥は、わらわのダチで、姉上じゃった」
「ガラシャ…。ガラシャは私の大切な仲間で、友達で、きっとずっと妹分」
「!…わらわも、朔弥は姉貴分で孫はダチで…ダチで…」
胸元が暖かい。
そうか、ガラシャは泣いている。
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