「のう、朔弥。朔弥は孫の弟か?」
ガラシャの発言に孫市が吹いた。
今まで朔弥は男に思われはしたが、あからさまにそう聞く者は居なかった。
朔弥に「汚い」と一言頂いた孫市は目を泳がせる以外出来なかった。
「違うよ、ガラシャ」
「ならば、弟子か?」
「…まあ、そっちの方が近いな」
孫市の内心は「朔弥が弟、朔弥が弟」という言葉がまわりにまわってそれどころではない。
今の朔弥はちょうど男装して、しかも言葉遣いも男に似せて喋っている。
それには朔弥なりの考えがあってのことだ。
戦場で女は狙われやすい。
ただの襲撃ならば幾分かいいが、暴行をはたらく者もなかにはいる。
それから身を守るのに男装をしていると言うが、どちらかといったら動きやすいからだろうと孫市は思っている。
朔弥は座る時いつも胡座をかくからだ。
女の格好ではまず出来ない。
「急にどうした」
「朔弥と孫は似ているから兄弟だと思ったのじゃ」
「似てる?俺と朔弥が?」
「そうじゃ。銃の構えも、動作もじゃ」
「そりゃ、俺が教えたからな」
「あと、女心を分かっておるぞ!」
それは当たり前だ、朔弥は女なんだからな。そう言いたいのを孫市は飲み込んだ。
なぜなら楽しそうに話すガラシャの横で朔弥が否定せずに聞いているからだ。
恐らく朔弥は自分を男だと思い込んでいるガラシャに自分は女だと言う気がないのだ。
「ガラシャ、孫市は女心が分かっているかも知れないがそれを上手く活用できてない」
「なんと、そうなのか孫」
「私が見た限り活用できてる場面に遭遇したことがない」
「そ、そうか?わらわにはそうは思えぬ。だって、孫は…孫はわらわを助けてくれたぞ?それに…」
「こんな嬢ちゃんに慕われても守備範囲外なんだがなぁ…」
「狙った所に命中しなければ意味ないんだろ?」
必死に孫市のいいところを挙げるガラシャをよそに朔弥は孫市の痛い所をついて楽しんでいる。
もしかしたら朔弥は加虐心が旺盛なのかと疑った孫市。
そういえば朔弥は孫市の狙った女に好かれるところがあった気がする。
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