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「てなわけで、コイツ連れ行くから」

「今までお世話になりました」


秀吉とねねに軽く報告する孫市。
その横には朔弥がペコリと頭を下げているではないか。
秀吉は「…ああ、そうか。うん」と呆気にとられて何とも締まりのない声で答え、ねねは口をあんぐり開けたまま固まっている。


「よう孫市が連れて行く言うたな」

「頭下げて頼みました」

「朔弥にあそこまでされるとは思わなかったからな…」

「ちょ、ちょっと待っておくれよ。朔弥、ここから出て行っちゃうのかい?」

「はい、雑賀に身を寄せる事にしました」

「ここにいるっていう選択肢は、ないのかい?」


ありがとうございます。と朔弥は頭を下げた。
するとねねはそれ以上言うことを止めた。


「しかし朔弥が居なくなると寂しゅうなるな」

「本当だよ…せっかく可愛い娘ができたっていうのに」

「毎日騒いどったからな、ねねと朔弥は」

「そうだ、着物はどうするんだい?持って行くだろう?」

「せっかくですが…」


朔弥が困ったように笑うと、ねねは急に立ち上がり、朔弥を立たせた。
立たされた朔弥は目を白黒させ、あとの二人もビックリしている。


「こうなったら今の内に色んな着物を着せて、化粧させて、思いっきり女の子をしよう!うん、そうしようね」

「おー、今の内に楽しめ、ねね」

「あんまりやると、まぁた朔弥が逃げるからほどほどになー」

「なぁっ、見捨てるな!」


そんな事我関せずといったようにねねは朔弥を引きずり、あとの二人は手を振って送り出した。
虚しく朔弥の抗議の声が聞こえたが二人は無視を決め込んだ。
ねねに適わないのはわかりきった事だ。


「しかし、驚いたわい」

「な。アイツがどうしたいか決めるとは俺も思わなかったさ」

「ちゃうわ、馬鹿たれ。朔弥の事もあるが、孫市らお前の事じゃ」

「俺か?」

「そうじゃ、お前ときたらオナゴと見ればすぅぐ手ぇだすじゃろ」

「お前もな」


すかさず孫市が突っ込みをいれると秀吉はグッと黙ったが、言葉を続けた。


「なんで朔弥に手ぇ出さん?」

「あー…そこを聞くか」

「聞かんわけにゃ、いかんじゃろ」


ニヤニヤ笑う秀吉に孫市はどうしたものかと考えた。
特に気にしていなかったと言ったら嘘になる。
孫市にとって朔弥は確かに女だ。
しかし、何故だかそういった感情は生まれない。
孫市は「俺にもわからねぇ」とへにゃりと笑った。

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