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「…くのいちが、申し訳ない事を」

「い、いえ…」


くのいちはどこ吹く風といったようにしている。
あの一波乱の後に朔弥が冗談半分でくのいちに「私にも触らせろ」と言ってみたらあっさり了承されてしまった。
言い出した手前、引っ込みがつかなくなってしまった朔弥。
軽く触ってオアイコにしようとしたら、くのいちはガッシリと朔弥の手を掴んで自分の胸に当てたのだ。
そこでまた騒ぎとなった。

部屋の隅で孫市が小さくいじけているのは視界に入れないように朔弥は努めた。


「あの、私はどういったご用件で呼ばれたのでしょうか」

「朔弥殿が回復されたと聞きましたのでお会いしたいと孫市殿に申し出ました」

「それはわざわざありがとうございます」

「一緒に祝杯を上げようと思っていましたが出来ませんでしたね」

「左近に朔弥が見間違えると言われてな、会えるのを楽しみしていたんだぞ」

「それはすみません」


朔弥が困ったように笑う横にくのいちが。
しかも今度は朔弥にピッタリと抱きついている。
最初は幸村に諫められてはいたものの、最終的には諦められ、朔弥も了承したのだ。
いわば、くのいちの根性勝ちだ。


「ところでお嬢さん、次はどうするんだい」

「次…ですか」

「孫市についてこっからいなくなるか、ここに残るかだ」


朔弥がチラリと孫市を見てみるが、相変わらず隅でいじけたまま。
ひとつため息をついて答えた。
「それはこれから孫市さんと話し合いをしてから決めたい」と。
出来たら銃など扱いたくはない。
しかし、朔弥はそれ以外でここでの生き方を知らないのも事実。
誰の嫁になるといっても知り合いもいない。
何より奥方になったても、ねねの様に戦に出されるのが落ちだ。


「ねえ、朔弥ちん」

「はい」

「今度は武田においでよぅ」

「…私の一存で決められないよ」

「お館様は朔弥ちんの事気に入りそうなんだけどなー。きっと可愛がってもらえるよ」

「ここでも十分過ぎるほどだよ」

「くのいち、朔弥殿が困っていらっしゃるだろう」


その方が幸村様も嬉しいクセに。くのいちがポソリと呟いた。

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