「ほほーう、幸村様の言ってた御仁ですねえ」
「こら、くのいち。朔弥殿に失礼だろう」
部屋に戻る途中で広間に寄るように言われ、そちらに行くと数人がいた。
幸村、兼続、孫市、そしてやけに派手な人。
朔弥に気付いた孫市が手招きをしたので、一歩踏み出した瞬間、天井から人がにゅっと出てきた。
「失礼しました、朔弥殿」
「いえ、忍の方ですか?」
「ええ、真田家に仕える忍のくのいちと」
「この前の戦で助けてもらったろ」
ニコニコと朔弥を眺めるくのいち。
くのいちの事を聞いていると孫市が礼を言えと声をかけた。
「初めまして、先日の戦でお世話になりました」
「んー、初めまして。じゃないんだけどなー。あの戦で話したっしょ?」
くるんと身軽に着地をして朔弥を覗き込む様にみるくのいち。
朔弥がたじろぐと、それに味をしめたようにジリジリと近付いていく。
朔弥が退けば、くのいちが迫る。
くのいちが迫る、朔弥が退く。
その繰り返しだ。
「ほらぁ、思い出さない?」
「す、すみません。その時の事、あまり覚えていないんですよ」
「えー?」
幸村が「くのいち」と制止をかけるとあっさりとやめた。
流石は主従といったところか。
それを兼続が笑い、派手な人はさらに豪快に笑っている。
くのいちはパッと朔弥の後ろに回り込み、背中を押した。
「さあさあ、こちらへどうぞどうぞ」
「は、はぁ」
朔弥が腰を下ろすとその隣にちゃっかりくのいちも腰を下ろした。
しかしこちらの忍は露出が好きなのだろうか。
ねねも露出の高い着物で戦に挑んでいる。
「確かに一見男にも見えるが、やっぱり女だろ」
「慶次、そんな面と向かって言うものではないぞ」
「おい、慶次。朔弥にまだ紹介してないのにんなこと言うなよ。朔弥だって傷付くだろ」
「慣れましたから」
朔弥が素っ気なく答えると慶次とくのいち以外は苦笑、慶次は大笑い。
くのいちはじぃーっと朔弥を見つめている。
そして孫市が大きく一息つくと朔弥に慶次を紹介した。
「兼続から聞いてるよ、嬢ちゃん」
「あまり良くない話でしょうか」
「なに、あの三成を投げ飛ばしたのと銃の腕っ節がいいってな」
「…左様で。ところで慶次殿お聞きしたい事があるのですが」
「なんだい?」
「その、髪の毛は染められたのでしょうか」
「おうよ、どうだい似合うかい?」
自分の頭を指差して朔弥に問いかける慶次。
朔弥は「とてもお似合いですよ」と柔らかく笑うと、今度は慶次が目を丸くした。
批判をされはしたが、褒められた事は記憶に薄い。
兼続が「お前らしいではないか」と笑ったくらいだ。
「変わったお嬢さんだねぇ」
「本当だな、慶次の髪色を褒めたのは朔弥、お前が初めてだ」
「……そうですか?」
談笑している間も朔弥を見続けるくのいち。
流石に朔弥も気にせざるえない。
「く、くのいち殿?」
「くのいちでいいよん、朔弥ちん」
「(朔弥ちん…?)あの、私に何か?」
「んー?」
幸村がくのいちを諫めようたとした、その瞬間の事だった。
朔弥の後ろに素早く回り込み、事もあろうに朔弥の胸を鷲掴み、揉みだしたのだ。
これには幸村だけではなく、全員が口を開けて驚いた。
「んんー、意外とありますな。朔弥ちんは着痩せして男に間違われるのかにゃ」
その後我に返った幸村が「くのいちー!」と叫ぶのだ。
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