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「もう心配ないでしょう」


医者からの良好な答えを貰うと、自由に動いてもいいということだ。
それを聞いて喜んだのは朔弥だけではない。
一番喜んだのはねねだ。
彼女は本当に朔弥を可愛がり、実の娘の様に甲斐甲斐しく世話をやいていた。


「…自由っ」


ねねが用意してくれた着物を来て、久方ぶりに馬屋に向かった。
何日も部屋に籠もっていたので体が少々だるい。
しかし、もう部屋に縛り付けられることはない。
これからの事は孫市が帰ってきてからはなせばいい。

馬屋の爺に挨拶をすると「回復なされたようで、安心しましたぞ」と柔らかく笑ってもらった。
そしていつものように馬に手綱をつけて渡してくれた。


「お前と歩くのも久しぶりだね」

撫でてやると嬉しそうに鳴く馬。
爺に「いってきます」と声をかけて馬屋をでた。


「私ね、戦に行ってたんだ。そこで怪我して、意識失って、戻らなくて、傷負けして膿んで、熱だして」


情けないね。朔弥が苦笑すると、馬がそれを気にしたかのようにすり寄ってきた。


「なに、心配してくれるの?」

「そりゃ、幸村殿がその馬に報告してましたからねぇ。逐一」

「…左近殿」


後ろから声を掛けたのは左近。
どうやら彼も残党狩りに参加していたようだ。


「毎日毎日幸村殿はその馬に、朔弥殿は暫くこれません。ってね。仕舞いにゃあ様態まで報告する始末で」

「それはそれは…幸村殿も根気強い。馬に話しても分からないでしょうに」


突っ込む所はそこじゃないでしょうに。
左近は内心呟いた。
このお嬢さんは鈍いとかいう以前の問題か。
幸村の行動から朔弥に対する好意は容易に想像できる。
幸村も余程鈍くなければ己の行動の自覚もある。


「そうだ、左近殿。賭は私の勝ちです」

「…賭?はて?」

「戦の前に話したではありませんか、孫市さんの、あれです」

「ああ、あの。…そうですか、」


左近が深いため息をつくのを朔弥は少し自慢気に笑った。

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