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「なんだ朔弥、お前今回狙撃に回されたのか」

自覚はないが、少し自慢げに頷いたらしく孫市に笑われた。
護衛も仕事だが、やはり己の実力を出せるのは狙撃だと思っているし、何より褒めてもらえて胸を張れる仕事が出来るのは嬉しい。
最初は全く持って駄目だったこの仕事もいつの間にか板についているわけだ、本業が出来る喜びは多少なりともある。

「クビになるなよ」
「護衛の仕事はクビでもいいけど、これがクビになったら流石に堪える」
「クビになったら雑賀で叩き直しだな」
「…出戻りは嫌だな」

なら仕事しろよ。と後頭部を叩かれて、孫市は自分が指定された場所に向かう。
孫市も狙撃が専門なので戦場からは幾分か離れた場所に向かうのだろう。もしくは本陣待機の孫市が単独行動か。本来ならば全員が行動を把握していた方がいいのだろうが、今回は軍議から外され、小十郎殿から直接狙撃地を言いつかった。
小十郎殿も雑賀に居た事を知っているし実力も知っている。それを考慮し、傭兵と言うある意味信用ならない事もあっての事だろう。今まで直政殿の護衛があったので参加が許された特例と思えば納得はできる。

「朔弥」
「甲斐姫」
「私と毛利殿で説得したんだからしっかりやりなさいよ」
「毛利殿が、では?」
「うるさいわね、朔弥のそういうところ嫌いよ」
「それはそれは」
「まあいいわ、朔弥頑張ってね」
「甲斐姫も、ご武運をって言うんだっけ、この場合」
「そうね。でも朔弥に言われると違和感しかないわ」

二人で少し笑ってから持ち場へ向かう。
今までどおりに一人、狙撃に集中するには護衛が居た方が安心だが相棒の狼がいるのでいい。狼がいなければ一人でしなければいけない分危険は多いが、狼がいればその危険性が幾分か減るのはありがたい。一人で傭兵をしていると何かと不便だが、この狼の存在で何度も救われている。動物は裏切らないので助けるもんだと思ったのは最近だが。

「朔弥」
「直政殿、狙撃の任感謝いたします。必ずや」
「俺の護衛は不満だったか」
「……は、い?」
「どうなんだ」
「元は雑賀ですので、狙撃を主として傭兵をしておりました。餅は餅屋というように、狙撃の方がお役にたてるかと」
「お前の言い分を聞いているのではない、不満だったのかどうかと聞いている」
「…不満ではありませんが、直政殿に付いて行くのは至難の業でして。毎回お守りできるか不安でした」
「事実お前は出来ていた」
「…ありがとうございます」
「………期待している」

深く頭を垂れてから狼を連れて場所へ向かう。
何か引っかかる印象ではあったが、それを深く追求できる身分ではないし、そこまでの興味もない。仕事を全うするだけの存在である傭兵には言えば無縁のものだ。
契約の打ち切りを言われても文句はない、ただ金が入ればいい。

「……そろそろここも潮時かな」

そんな独り言を言いながら身を潜めつつ狙撃に機会をうかがう。
開戦さえまだしていない此処は不穏な静けさと空気が漂う。
相棒の狼は同じく身を潜めつつ周囲に敵の気配がないかを必死に警戒し、立派に護衛の仕事をこなしている。

「ここが終わったらどこに行こうか」

勿論狼は返さない。そもそも狼は喋らないし、喋ったとしたら煩わしくてこうして一緒に行動はできないだろう。動物は喋らないからいいのだ。

不意に空気が緊張し、怒号が聞こえる。
戦が始まった。

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