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前回に引き続き護衛を言いつかった。
それに対して不満はない。仕事で金が貰えればそれでいいし、今までにも同じような仕事がなかったわけではない。それ以上に危険な仕事もあったが、それでも仕事だからと割り切っていた。
前の防衛戦で負った怪我はまだ完全には癒えてはいないが支障はない。狼の調子も悪くない。

「朔弥、怪我しないようにね」
「…甲斐姫も」
「私がそんなヘマすると思ってんの?」
「熊姫ですもんね」
「誰が熊姫だ、こら」
「がおー」
「うがー!!」
「怒れる熊姫よ、鎮まりたまえ」

ぱんぱん。と柏手の真似をして叩く。勿論こちらはふざけて言っているが甲斐姫にしてれば本気かもしれない。ぐるる!と見て取れるほどに怒っているが、これからの戦どうするつもりなのだろうか。精神が高ぶっているといえば聞こえはいいかもしれないが、それが持続するのだろうか。

「朔弥、配置に付くぞ」
「はい。じゃあ甲斐姫、また後で」
「ぐぬぬぬ…怪我、しないようにね。後でこの事はきっちり話つけるんだから」
「恐いなー、熊に食べられてしまう」
「だから熊じゃいっての!」
「朔弥」
「はい、ただ今」

お互いに控えめに手を振ってから配置に向かう。
赤揃えの目立つ鎧に直政殿の護衛の為、その目立つ鎧の後ろに控える。傭兵の性というか、この目立つ物を守る指標にするのはいいが守る観点からすると目立つのはいかがなものかと思う。しかしそれは口を出すような事ではないこともわかっているので言わないが。
傭兵なのだから言われたことを十分にやればいいのだ、結局のところ。

「朔弥」
「はい」
「甲斐と交流があるのか」
「…ふざける程度には」
「そうか」
「…」
「毛利元就が恐らくいると思うが、どうする」
「仕事をするだけです」
「期待しているぞ」
「はい」

前金は貰っている、後は仕事の出来次第だ。金の半分を貰っている以上仕事をこなして残り半分を受け取るまでは死ねない。そんな事を言えば甲斐姫だけではなく孫市にも呆れられるだろうが、それでもいい。最初にそう仕込んだのは孫市だが、それは今は黙っておく。

「敵拠点への一番乗りは俺がもらう」
「背後はお任せください」

直政殿が地を蹴る。その力強さは知る限り同じ人はいない。あれだけの装備に大きな得物でよくもあれだけ駆け回れるものだと思う。ついでに言えば直政殿よりも軽装だが付いて行くのもツラいのがオカシイのかとも錯覚するくらいには見た目と動きが一致しない。
駆ける直政殿から離れないように同じく地を蹴るが距離は思うほどにも縮まる様子はない。
向かってくる敵兵を遠距離から狙撃しつつ援護する。
前に毛利殿に言われている通り、近距離戦は向いておらず遠距離の狙撃に特化しているといってもいい。なので正直こういった切り込む人間の護衛は向いていない。
孫市も毛利殿も言っていたのでご存じのはず。それでも護衛の依頼があったのは単に前の仕事ぶりを気に入ったためなのだろうかという疑問はある。

「あれ、また朔弥を護衛にしてるの?君」
「貴殿には関係がない話だ」
「うーん、まあそうだけどね。勿体ないなって、朔弥程の狙撃手なかなかいないっていうのに」
「朔弥!行くぞ!!」
「はいっ」

以前世話になった人も敵になってしまえば敵でしかない、そんな世界だ。
上がる息を締めるように息を止め、標的を絞る。
ただここでやることは引き金を引くだけでいいのだ。

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