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「やだ、朔弥じゃない」
「甲斐姫…」
「甲斐でいいって言ってるでしょ」

上品ではないか、親しみやすい笑顔で甲斐姫が笑う。
聞けば新しく登用されたというではないか。前の記憶をたどれば、それほど親しかった記憶はないが、それでもこうして会話ができる関係だったらしい。

「朔弥はここに来て長いの?」
「長くはない、と思う。それこそこの前の防衛戦が初戦というか」
「ああ、隣国と小競り合いしてるんだっけ、ここ」
「そこで評価されて…今も傭兵してる」
「召し抱えてもらってないの?」
「元が傭兵だから、そういうのよく分からなくて断った」
「勿体ない!勿体ないよ朔弥!!」

お家の為に頑張ろうって気持ちはないの!?と肩をガクンガクン揺さぶられると、近くにいた狼が大きな声で唸って威嚇する。
危害を加えられていると判断したのだろう。それに気づいた甲斐姫は「ち、違うわよ、朔弥をいじめているわけじゃないんだからね!?」とパッと離す。

「それ、朔弥の?」
「そんなところ」
「へえ、ご主人様ちゃんと守ってるのね偉い偉い。ね、名前は?」
「ない。つけてない」
「………朔弥、あんたゆがみないわね…せっかく飼ってるなら名前くらい付けてあげればいいのに」
「…………どう、つけたらいいかわからない」
「変な所で真面目ね」

甲斐姫が狼を撫でようかと手を出すと、狼は牙をむいて威嚇をする。そこまでしなくていいと思うが、狼にしてみれば甲斐姫には触ってほしくないのだろう。狼から見れば主に危害を加えた存在だ。
驚いた甲斐姫は「アンタ可愛くないわね」と睨んだ。

「ところで朔弥。ここってどんな男がいるの?」
「……まず大名の井伊直政殿、軍師の片倉小十郎殿、孫市くらいしか知らない」
「私もそんなところかな。そんな少人数でよくやってるわよね、ここ」
「優秀なんじゃないの」
「………朔弥さ、もう少し自分のいる状況確認しておいた方がいいって、本当」
「金さえもらえれば。それに傭兵だから危なくなったら逃げるから、多分大丈夫」

それが傭兵の良い所だろう。忠誠を誓わないからここで共倒れにはならない、守らなければいけないものはない、守られる必要もない。
傭兵が毛嫌いされる要因でもあるが、だからこそ自由でいられる。縛られる必要がないかわりに、すがることもない。

「ま、でもこの私が来たからにはもう安心よ朔弥」
「逆に心配じゃ?」
「どういう意味よ!」
「小十郎殿の目の前でこうやって大声上げてるあたり心配だなって」
「え?」

甲斐姫の後ろ、そこには厳しい表情をした小十郎殿がこちらを凝視している。俗に言う睨みを利かせるという表現が近いだろう。
人となりが分かり、それこそ受け流すに近い対応をしているので恐いと思う事は少ないが甲斐姫にとってはどうだろうか。馴れていないと恐ろしいのではなかろうか。

「失礼ながらお嬢様方」
「お、お嬢様!?」
「小十郎殿が女性を呼ぶ時に使うのものと思った方がいい」
「え、そうなの?私個人じゃないの??」
「別名熊姫…」
「うるさいわね!」
「お元気な事は大変喜ばしい事ですが、場所をお考えになれないほど頭までお元気なのでしょうか」
「…え?」
「申し訳ございませんでした小十郎殿、以後気を付けます」

サッと頭を下げて非礼を詫びてその場を去る。確かにあそこでは嫌味を言われても仕方がない。意味がわかっていない甲斐姫はとりあえず付いてくるが、やはりわかってないらしく「ちょっと!」と声を荒げている。

「あの小十郎って人なんなの?」
「軍師をしてる。俗にいう毒舌って人だから真っ向勝負はやめておいた方が良い」
「は?」
「大名の直政殿は良い良い方をすれば素直で真っ直ぐな方、孫市は…まあ会った方がはやい」
「……朔弥、あんたも苦労してんのね」
「嫌になったら逃げられるっていうのが傭兵の良い所じゃないかな、多分」

朔弥ってば!と少し怒ったような、呆れたような。そんな甲斐姫の声がした。

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