無双 | ナノ
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防衛戦から七日ほど経った日。まだ落ち着いたとは言えないが城内の慌ただしさは多少は落ち着いたといえるだろう。
毛利元就殿を撃破どころか捕縛さえもできなかったが防衛自体は上手くいき、あまり大きな痛手を受けることなく終わった。当然防衛戦が終わった後に直政殿には事情聴取らしきことをされたが、それ以外は特に目立ったことはない。
ただ無傷で済むほど戦に慣れてはいないし上手くもない、この腕はいつもの様に手当をしてあとは治癒能力を信じる他ない状況だ。戦の相棒である銃はいつもの様に手入れをすれば傷がふえているし、狼は獣らしく大きな怪我もなく元気にしている。その姿を見た小十郎殿には「お嬢様も狼殿を見習われてはいかがでしょうか」と嫌味を言われたが「そうですね」と返しておいた。

「…騒がしい」

戦の後の銃の手入れはいつも以上に丁寧にしておかないといけない。その教えに従って手入れを再度していると騒がしい音が大きくなる。誰かが走る音に大声、叫び声ではないので一大事ではないのだろう。慌ただしい様子を不審に思いながら銃を素早く組み立てて火薬や玉の在庫を確認しつつ最低限を持てるように用意する。そして床下で待機を命じていた狼を小さく口笛ですぐ出れるようにと外に出る様に命じる。

「お嬢様、すぐこちらにおいでいただけますか」
「…敵襲ですか?」
「そのようなものです。来ていただければわかるかと。あと武器を不要ですので」

銃を手にしていたのをみて小十郎殿はそれを降ろすようにと目で言う。
それ以外にも武器はあるので最悪戦闘になった場合はまあ大丈夫だろう。敵襲の様なもの、というと誰かに暗殺者でもあられたのだろうか。
急かされるようについてこいと言われて向かえば、そこにはつい先日顔を合わせた毛利殿が。

「やあ朔弥、大きな怪我はなさそうで何よりだね」
「お、大殿…?」
「殿は直政殿でしょうお嬢様」
「え、朔弥お嬢様なんて呼ばれているのかい?」
「…っ失礼しました」
「朔弥、その話は今は不要だ。座れ」

言われるままに座ると、正面に居る毛利殿はニコニコとしているしその反対にこちらの陣営の方々は非常に芳しくない表情だ。
詳しい状況は把握できないが、長くやりあってきた隣国の軍師が何しにやってきたのかということだろう。

「じゃあこちらからの要求というか提案だね、同盟を結ぼう」

何やら小十郎殿には軽く睨まれている気がする。
こちらから侵略戦をすれば勝てる相手だというのは聞いていたし、あちらもその程度には勝てる要素は恐らくお互いあったのだろうとは思う。それを今になって同盟を持ちかけてきたのだ。睨む要素は思い当たるが睨まれる心当たりはない。

「急な心変わりはどういった事だ」
「いやあ、だって君のところに朔弥がいるから」

そういう事か。と小十郎殿の痛い睨みの訳を知る。
確かに面識があって以前世話になっているが、そこまで評価してもらえる様な技量はない。孫…の様に可愛がっていただいたが、それだけだ。

「お嬢様をずいぶんと過信なされておいでで」
「過信じゃないさ、朔弥は出来る子だよ。そうでなければここの大名の直政殿に付いて走れるわけないだろう?」
「お言葉ですが、ついて行けてませんでした」
「私には十分ついて行けていたように見えたよ。いつもの彼と比べて」
「話の最中失礼いたします、それとこれとは話が別かと。失礼ながら申し上げれば同盟とお嬢様の関係が見えません」

言えば「早く条件を言え」という事だろう。
冗長的な会話は談笑にはいいだろうが取引には向かない。そういう戦略ならまだしも、ここの少し緊迫した空気には逆効果…いや、ここの大名には合わないといってもいいだろう。

「それじゃあ仕方ない、もう少し話をしたかったんだけど。同盟結ぶから朔弥が欲しいなと思って」
「断る」
「悪い条件じゃないと思うんだけど。まだ朔弥は君のところに来て日が浅いだろう?それほど信用に足る人物かい?」
「俺に付いてきた、それだけで十分だろう」
「そこは評価してるんだね、私もそれは凄いと思っているよ。あの体力がない子がよく頑張ったよね」
「昔の話はやめてください」

同盟の条件が引き抜きとは。大体その条件に見合うだけの人材だとは到底思えなければ、その同盟でここの領民が得をするとは思えない。同盟はお互いに利益がなければ意味がないのだ。

「そういえば朔弥の師匠は今いないの?」
「孫市ですか?」
「それが何か」
「いや、彼朔弥を私のところで前に雇おうと思ったら血相変えてきたから」
「それは多分問題ないと思います。独立をしたので、誰と契約しようが孫市には関係ないので」
「それはよかった」
「よくない。話はそれだけか」
「そうだね、同盟を結ぶのが一応目的だし」
「ならば同盟は結ばない、朔弥もそちらにはやれない」

ついでにこちらとしても今元就殿のところに行くわけにはいかない。
何故ならばまだ金を貰っていないのだ。それが終われば条件次第でそちらに付くこともあるだろう。なんせ孫市と違い傭兵で身の振り方は自由であり打算で動ける。

「朔弥、井伊からはどのくらいの給金がでるんだい」
「今は関係ないと思いますが。それに申し上げる必要もございません、お嬢様の給金の額は」
「申し上げにくいのですが、今回の給金の額は知らないのでどちらにせよ申し上げられません」
「え、そうなの?お金の事に関しては朔弥は絶対に譲らないのに」
「色々ありまして、今回は」

えー、じゃあここで朔弥と交渉できないのか。と言うが、こんな敵地で敵に囲まれて何を考えてるのだろうか。
頭の良い人間の考えることは凡人にはわからない、と言う事なのだろうか。

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