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「朔弥の銃の腕なら俺が保証する。なんたって朔弥は雑賀だったんだからな」

余計なお世話だ。とこの時ばかりは思った。
何故かと言えば隣国との小競り合い、と言っていいのだろうか。隣国は何かにつけてここに戦を吹っ掛けてきてはこちらは防衛をしていたということらしい。
小十郎殿曰く、こちらから仕掛けても十分勝てる戦力ではあるが今はまだ時ではない。とのことだ。戦に勝ってもその土地を管理できなければまた他国の標的になる、ということなのかと勝手に解釈しているので彼の本来の考えとは異なるだろう。
その隣国がまたこちらにちょっかいを出している、と言う事だ。

「そうか」
「………」
「私もお嬢様の腕前は存じております。信頼はできるかと」
「ご期待に沿えるよう尽力したします……」

言いつけられた任務は大名の井伊直政殿の護衛だ。本来であれば大将にあたる大名は本陣にいるものだが、どうやらここの大名はそういったことが苦手というか嫌いらしく、大将らしくもなく敵陣に突っ込むお人らしい。大将が討ち取られてしまえば一環の終わりということもあり、毎回護衛がつけられていたらしいのだが、その任が回ってきたらしい。
前回までの護衛は孫市がしていたらしいが、今回は普通に防衛戦に出ることが出来ると喜んでいた。




勝手な思い込みだったといえば、そうなのかもしれない。今まで仕事でも戦の大将の護衛は何度かしたことがあったが、あれほどに敵陣に切り込む総大将がいただろうか。
こちらの事などお構いなしに敵陣地に切り込むのはまさに鎧の色もあって赤鬼だろう。しかしだ、こちらの仕事はその鬼の護衛。むしろ護衛なんてものは不要だというようなその切り込み方は護衛の存在意義を疑問にさせる。

「…っ早すぎる」

指笛で狼を走らせ、何とか直政殿の姿を視界に入れながら護衛というよりも援護に入る。
接近戦に向かない事は孫市からも小十郎殿からも伝えてあるのでそれはご存じだろうから援護でも構わないだろう。ここで手違いで雇い主を死なせてしまえば明日の食事どころか自分の評判を落とすことになってしまう。時代が時代なだけ、そして傭兵という立場からしても誰かの死というのはそういうものだと切り捨てる他ない。

走っては撃ち、撃っては走る。走る走る走る。
馬に乗っていないのが幸いだろう。これで足の速い馬に乗られて日にはこちらも馬がなければ完全に置いて行かれている。

「遅い!遅すぎるぞ朔弥!!」
「っ申し訳ありません…!」
「それでも戦国最強と謳われた雑賀か!」

最後の一文字と同時に発砲する。勿論雇い主である井伊政殿ではなく、その死角にいた弓兵に向かってだ。

「申し訳ありません」
「いや、よくやった。あれは俺は把握できていなかった、では引き続き敵本陣を目指す」
「…はい」

こちらは呼吸さえままならないのに。という愚痴をこぼす気さえ失せてしまった。立場が立場だといえばそれまでだが、言ったところで聞いてはくれないだろうという諦めの方が大きいのかもしれない。依頼された仕事を完璧にこなす、それがやるべきことだろう。
血なまぐさい事に関する不快感や死体への恐怖心はもうどこかに落としてしまってどのくらい経っただろうか。思い出すのさえ億劫なくらいには遠くに置いてきたらしい。

「おや?なんだ朔弥じゃないか久しぶりだね。今度は井伊家にお世話になっているのかな?」
「……え」
「毛利元就と知り合いか朔弥」
「以前私のところにいたんだよ。そうか、今は井伊にいるのか…どうだい朔弥、こちらに付かない?」
「……とりあえず、今は敵という事なのでその話は後にしていただいてもよろしいでしょうか」
「あはは、朔弥も変わらないねえ。そうそう、私は今軍師で大名は息子の隆景で井伊の隣なんだ。じゃあ今度は朔弥を引き抜きに行こうかな」

敵本陣のひとつ前の拠点に居たのが毛利元就、記憶のずれが起こる前に世話になった記憶がある。どうやらそれも繋がっているらしい。またついでに言えばここは彼の土地ではまったくもってないのだが。
記憶にあるとおりに読めない笑顔でいつものようにあははと笑っているが目が笑っていない、そんな感じである。

「あーあー、駄目じゃないか。朔弥の使い方がなってないよ。朔弥は遠距離戦、言えば狙撃手なんだから戦場を連れまわすのには向いてない」
「なんだと?」
「私だったらの話だけどね。朔弥、人が話している間に構えるのはやめなさい」
「仕事なので」
「ああ、そうだったね。うーん、ここで朔弥を捕縛っていう手もあるけど、肉体労働は得意じゃないからな…どうしようか」
「では提案をひとつ、ここは退いてはいかがでしょうか」
「うん、それもひとつだね」
「な!?貴様正気か!!たかが傭兵の小娘一人の言葉に従うのか!?させてはなるものか!!」

ぴゅうい。と口笛で狼に得物を捕えろと命じる。
陰に隠れていた狼が即座に姿勢を低くして駆け出し得物である人間に向かい一目散。
あれは確か毛利を離れたから使うようになった狼だからこの手は知らないはずだ。
突然の狼の登場に姿勢を崩した隙を狙って直政殿が走り、それを援護するように発砲の瞬間を伺いながらも周りへの警戒も怠らない。
確かに接近戦は向かないな、神経が減りすぎる。

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