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※お犬様
 孫市出ます
 何でも許せる人向け



朔弥が蜀での生活に馴れてきた時の事だ。
いつもの様に徐庶に従い仕事補佐をしようとしていた時に、急な召集がかかり、それに朔弥も呼ばれた。そもそも朔弥まで召集がかかると言う事は珍しい。その段階でなにやら嫌な感じ、かはどうか別として、何かの予感はしたのだ。

「……孫市?」
「…朔弥の、知り合い?」

徐庶の後ろに控えて、劉備がある人を迎えたと紹介している。その人は朔弥の見覚えのある人間にそっくり、いや本人だった。
孫市は朔弥に気付いた様子はなく、自己紹介をしている。その陰で徐庶が朔弥に「どういう関係?」とコソコソ聞いている。

「…師、です」
「師?」
「はい…」
「師って、師匠?」
「そうです、その師です…」

コソコソしているのは諸葛亮の視界に入ったのだだろう、咳払いを一つされてから睨まれる。二人は黙ってその孫市を紹介している劉備に頭を垂れて取り繕って見せた。
簡単に言えば、孫市は客将という形でしばらくは蜀に世話になるという事らしい。
徐庶に従って仕事を行う部屋に戻る際、師に挨拶は良いのかと聞かれたが朔弥はその時が来たら会うので。と挨拶を断った。

「どうして、挨拶に行かないんだい?」
「一応は一人前になれと言われて出された身なので、一人前にもなっていないのに会うのはどうかと思いまして」
「修行の旅ってやつなんだ」
「そうです。それに…」
「それに?」
「獲物を今全く使っていない状態なのを知られるのは………」

徐庶が以前朔弥の戦闘を見たときの獲物と今現在朔弥が使っている獲物は違う。以前の獲物は使うのに道具がいるとかで、今それがないので徐庶の撃剣を使っている。
それを師に知られるのはやはり弟子としては不味いらしい。
とはいえ、この城で顔を合わさないというのは難しい。なのでわざわざ今会わなくていい、というよりも会いたくないらしい。

「そうか、今使ってないのか」
「……ま、ごいち…」
「よう朔弥、久しぶりだな。男連れか?」
「今の雇い主の徐庶殿。聞かれたなら隠しても無駄だと思うから正直に言う、火薬と弾が底をつきそうで銃を使っていません、ください」

スパンをいい音を立てて頭を叩かれる朔弥。その姿に徐庶は「ぼ、暴力はいけないと思いますけど…」と遠慮下に朔弥をかばう。

「大丈夫?」
「平気です」
「朔弥が世話になってるそうで、雑賀孫市だ。よろしく頼む」
「あ、ああ…」
「朔弥、後で分けてやるから来い。それと銃の腕なまってないか見るから覚悟しておけ」
「……はい」
「あと話がある。悪いがコイツ貸してもらってもいいか?」
「え、ああ…どうぞ」

朔弥の頭をワシワシと撫でつけて、それから孫市はどこかへ行っていしまった。
それを見送ると徐庶は朔弥を気にしつつ執務室に足を向ける。
徐庶と朔弥の付き合いは長くはないが、こうして朔弥の知り合いを見るのは初めてだ。師とうよりも兄という関係に近い感じがしたし、朔弥の頭を撫でるくらいには親しいのだと徐庶は思った。

「朔弥、いつごろ…えっと、師匠のところに行くの?」
「お時間が貰えればいつでも」
「じゃ、じゃあコレを孔明のところに運んでもらったら行ってもいいよ」
「……いいのですか?」
「せっかく師に会えたんだ、ゆっくりするといい。俺の事は気にしないで…」

気にしないでと言うわりに、どうも気にしてほしいような雰囲気が出ている。それは多分徐庶自身は気づいていないのだろう。朔弥にはひしひしと感じ取れる。
それがどうも朔弥には悪い気がして、「では昼食後にお時間をいただいても…」と提案してみる。その位になれば人の往来もあって何かを人に頼むことも容易だろうと朔弥は考えたのだ。ただ、その本人が頼めるかは別として。
基本的に徐庶は朔弥以外にあまり人に頼めないのだ。朔弥は自分が個人的に雇っているというところがあり、それ以外はどうも逃げ腰になっている。

昼になり、食堂に徐庶の食事の準備をしてから朔弥は時間をもらって、間借りしている徐庶の邸宅に急いで戻って自分の本来の武器、銃を持って戻る。
最近使っていないとはいえ、手入れは欠かしていないから不具合は恐らくない。戻る間に露店で肉まんを一つ買って、徐庶の執務室で武器の確認をしながら頬張って時間短縮をはかる。

「なんてはしたない」
「…どうされたんですか法正殿」
「徐庶と一緒ではなかったので不思議に思いまして。なんです、それ。あの劉備殿が連れてきた男と同じような物ですが」
「孫市は私の師で、同じ武器です。これから手合せではありませんが私の腕が落ちていないか見るそうで徐庶殿からお時間をいただきました」

扉から顔をのぞかせて朔弥の恰好を見て眉をひそめる法正に朔弥は手を止めずに作業を続ける。気の知れた仲、という関係ではないが、ある程度は友好関係と言えるだろう。例の一件から何かとちょっかいは出されては周りに心配されるが、朔弥からしてみたら他の人間と変わらない。むしろ法正と関わっていると無駄な人間から声がかからなくて楽なのだ。

「食べるか作業するかどちらかにしたらどうです」
「急な呼出しであるのと、相棒を使える楽しみが一緒に来たので」
「…相棒、ねえ」
「法正殿、お食事に行かれた方がいいと思うのですが」
「終わりましたよ、もう。そうだ、コレあげます」

残っていた肉まんを法正が口に押し込め、朔弥があっぷあっぷしているのを面白そうに見ている。朔弥が飲み込んだのを確認すると、また朔弥の口に何かを押し込めてくる。

「饅頭です」
「………」
「美味いですか?」
「………」
「そうですか、それは良かった」
「………」
「口はひとつしかないんだから仕方ないでしょう」
「………」
「遊んでなんていませんよ、貴女で遊んでも仕方ないですし」
「……、よく私の思っていることわかりますね」
「わかりますよ、そのくらい」

口に饅頭を押し込められて抗議の声を出そうにも気が引けるので目で抗議すると、朔弥が思っていること全てに法正は答える。そこまで親しい関係だっただろうかと朔弥は思わず頭を傾げそうになったが、それよりも自分の思っていることがそのまま顔に出てしまっているのだろう結論付けた。

「しかし面白そうですね」
「なにがですか」
「その師とやらの腕試しですよ。気が向いたら見に行きます」
「え」
「何か問題でも?」
「忙しいとお聞きしてますが」
「また手伝ってくれるんですよね」
「え」
「わん」
「………」

では。とにやりと笑って法正は行ってしまった。

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