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※エンパネタ



「董卓、董卓」

丸々と太った体をどっこらしょと動かし、君主である朔弥の呼ぶ声に応えるために振り返ると、朔弥の隣には先日の防衛戦のおりに見かけた長身の青年が控えている。確か朔弥が小さな声で「あれは…」と反応していたあの青年だ。

「これはこれは朔弥様、ご機嫌麗しゅう。して、そちらは」
「先の戦に私が見初めた者だ。董卓にも話していただろう、その者を城下で見かけて。仕官を頼み込んだの」
「…左様で」
「董卓、文鴦だ。文鴦、この国の大将軍の董卓だ。董卓は私の親の代からの者なの」
「文鴦と申します」
「董卓じゃ。朔弥様、何故御自らこのような…そのようなことワシか他にも」
「私ももうこの地の君主としての役目を果たそうと思って。いつまでも董卓におんぶに抱っこと甘えてはいられなでしょう」

うふふ。と優しげに笑う朔弥とは反対に董卓はひきつった顔をしている。そんな董卓にはまるで気づかない素振りで朔弥は文鴦を連れて大きな廊下を歩いていく。



「朔弥様…」
「なに?」
「大将軍殿が」
「いいの、気にしないで。あれはいつもそうだから」

それよりもこっちよ。と朔弥は文鴦を手招いて部屋を指さしていく。
大きいとは言えないが、それなりの大きさの城は朔弥が案内しながら歩くが、文鴦にはそれだけですぐには覚えられるような規模ではない。しかし幼少から慣れ親しんだこの城は朔弥にとってはまったく気づかないようでその速度は衰えることはない。

「おや、新しい御付の方かな」
「郭嘉、お久しぶりですね。今日はどういったご用件で?」
「人生を楽しむのに必要なものが足りなくなってね」
「それなら士官してくださればいいのに」
「それは駄目だよ、まだ自由でいたいからね。今後の予定は立っているのかな」
「しばらくは富国強兵の予定です」
「それは残念だ」

門の近くまで来たところに、同性の文鴦から見ても美しい人がいた。どうして男性かとわかったといえば、顔はどんなに中性的であっても体つきはどこまで行っても男性の硬さがどことなく漂っていた。
その男性は朔弥と顔なじみらしく、金が欲しいから何か仕事はないかと聞き、しばらくは戦がないと聞いて帰って行った。

「朔弥様、今の方は」
「あの人は郭嘉。軍師なのだけど在野で、何回かこの国の関係する戦に参戦してくれている。誘ってみるけれど今のところ全敗しているのよ」
「…そう、なのですか」
「誘ってきてくれてのは文鴦だけ。私にできることってないのかと悩んでしまうわ」

腰に手を当てて朔弥はふう。と一つ溜息。

この国は正直荒れているだろう。しかしそこに人がいるのは国を出るという選択ができない人間が多いのかもしれない。他国から入ってくると余計にそれがわかる。民の話をきくとこうなったのは先代がなくなり、今の君主になってからだという。税が上がり、払えないとわかれば強制労働の末体を壊して戻らされるという。

「まあ、こんな治安じゃあ誰も来たくなくなるわね。私だって逃げたいもの」
「え…」
「私ね、政治に口が出せないの。出せても大まかなものでね、今回はこれ!くらい…民は私の事を能無しだって言っているのも知ってる。
だって私になってからこうなんだもの。継いだころの私はまだ小さくて、政治なんて知らなかった。董卓が実権を持つようになって、少しずつ荒廃していってる、今も」
「…そのようなこと、私に言っても…?」
「だって董卓の息がかかっていないから大丈夫でしょう。もし仮にそうだとして、私を殺しても今度は文鴦が殺されるわねアレはそういうやつだから」

ついでにこの国では誰もが知ってるの、董卓がこの国を牛耳っているって。と朔弥は続ける。
そんな董卓を罰することができない私は本当の能無しなのよ。と朔弥は自虐的に笑う。

「…では、なぜ正そうをしないのですか」
「力がないからよ。今は自分の命を守るだけで精一杯。郭嘉はね、昔ここにいたよ先代の時からの付き合い。でもやめちゃった、それでも他国に行かないのは私が可哀想だからなんだって」
「……」
「逆に聞くけど、文鴦はどうして私の誘いに乗ったの?この国を見て仕官してもいいだなんて嘘でも言えないでしょう」
「…私は」

文鴦が答えようとした瞬間、隣国から侵略を受けていると兵が大声で触れ回り始め、文鴦はその答えが言えないまま終わってしまった。

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