「すみません、遅れてしまいましたか?」
久しぶりに朔弥の声を聞いた。
布陣の時間にはまだ十分時間がある。
後ろから声を掛けられたもんだから、振り返ると見知らぬお嬢さんが一人。
「…お嬢さん、誰だ?」
「………」
「おっといけない、俺としたことが。ここは戦場になるんだ」
「知ってます」
「だからお嬢さんみたいな可憐な人がいちゃあいけないよ」
「ではお言葉に甘えさせていただきましょう」
くるりと踵を返したお嬢さんの背中に、不釣り合いな銃が一丁。
その銃は見覚えが有りすぎる。
朔弥に与えた銃だ。
ということは、そのお嬢さんは朔弥ということになる。
確か別れた時は自分が与えた着物で男装をしていた。
「ま、さか…朔弥、か?」
「…そのまさかですが」
開いた口が塞がらないとはこの事なんだろうな。
変わるにも程があるだろう。
目の前で振り向くお嬢さんには最後に会った朔弥の面影は少ない。
「…はー、変わったなぁ、おい」
「その反応見飽きましたよ、私」
「いや、悪い」
「慣れました」
この反応は朔弥だ。
女は化ける。誰だそんな事を言ったのは。まったくその通りじゃねぇか。孫市は心の中で呟いた。
自分で男装させていたのだが、ここまで女の格好で変わるとは思わなかった。
「お元気そうですね」
「…お、おう。お前もな」
「お陰様で」
「………」
「…なにか?」
「いや、なんて言うか…よ。…お前、美人だったんだな」
その時の朔弥の俺を見る表情がいかにも胡散臭い顔しててよぉ。
後に酒の肴に使われてしまう話なのたが、その話を聞いたねねが怒ったのは言わずもがな。
前 /
次