無双 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

※not無双主



「兄上、景勝兄上」

朔弥の声が聞こえ、あたりを見回すと少し隠れるようにして伺う朔弥を見つけた。景勝は朔弥に「どうした」と応えると、朔弥は嬉しそうにして傍によってきた。

「笹団子、いかがですか」
「…どうしたのだ」
「謙信父上の試作を手伝っておりまして。綾母上にはもう持って行ってありますので、これは兄上の分です」
「…そうか」
「甘いもの、お嫌いでしたか?まんじゅうを食べていたのでお好きだと思っていたのですが」

これはいらないことをしたのか。と朔弥が背を丸めると景勝は「では茶にしよう。今日は天気がいいから縁側でいいか」といえば、朔弥は嬉しそうに頷いた。


「今回はうまく餡子を包めました」
「…そうか」
「餡子の味はどうですか?甘すぎませんか?それとも甘くないでしょうか」
「ちょうどいい」
「謙信父上の包んだ団子、蒸しあがったら大きなって笹からはみ出ていたのですよ」
「……そうか」
「きっと団子も父上のように大きくなりたかったのですね。と言ったら笑っていらっしゃいました」
「そうか」

景勝は「そうか」しか言わないが、朔弥はそれを気にすることなく喋る。
景勝の口下手は今に始まったことではないし、それを気にしていてはこの上杉ではやっていけないと朔弥は幼心に学んでいたのだ。
朔弥は上杉の養女であって、上杉の血は一滴も通っていないのだ。

「もうすぐ北条からいらっしゃいますね、どのような方なのでしょうか」
「…そうだな」
「仲良くしてくださるでしょうか。まだ会った事もないですが、今から嫌われないか心配です」
「…大丈夫だ」
「景勝兄上は先の戦でお会いになられたのですよね」
「ああ」
「私は留守番をしていたので…戦は嫌ですが、少しお顔を拝見できたかもと思うと残念です」
「もうすぐ見られる」

景勝が茶を飲めば、朔弥は「おかわりはいかがですか?」といつものごとく聞いてくる。「いい」とそれ以上は不要だと朔弥の申し出を断ると朔弥も朔弥で「そうですか」と返事を返す。
朔弥以外の人間は景勝の言葉以上に何かをくみ取って、景勝が思う以上のとんでもない行動をとってしまう。しかし朔弥にはそれがない。言葉以上の事はくみ取れないが、言葉以上にへんに気を使うことはない。

「…朔弥、お前が上杉に来てどれくらいになる」
「そう、ですね…何年になるでしょうか…あまり覚えておりません」
「そうか」
「でも謙信父上や綾母上、景勝兄上と初めて顔を合わせた日は覚えておりますよ」
「…そうか」
「何より印象に残っているのは母上が愛ですと言って兼続を踏んづけた事です。愛とはまだ私はわかりませんが、痛いものなのだと思いました」
「………そう、だな」
「そういえば兼続は田植えを手伝っているそうですよ。今年もたくさん米ができるといいですね」
「そうだな」
「……今、なんとなく思ったのですが…」
「どうした」
「北条の方がこられたら、母上は、ま、また…あの、て、手料理、を…お、おつくり」
「!、み、みなまで言うな…」

さっと顔色を悪くして何を言うかと思えば、その言葉の先は地獄絵図ではないか。
これには朔弥につられて景勝も顔色を悪くし、二人でカタガタと震え始めた。武者震いではい、恐怖心からだ。

「どうしたのです、そのように震えて。今日は寒い日ではないのに」
「あ、綾母上…ちょ、ちょっとした怪談話を。兄上にもお話ししたら、私に合わせて恐がってくださったのです、兄上はお優しいので」
「そうでしたか。夜も眠れぬようでしたら母が昔話でもしてあげましょう。朔弥、笹団子美味しかったですよ」
「はい、ありがとうございます。兄上にも褒めていただきました」
「そう。景勝と朔弥は仲がいい自慢の息子と義娘です」

すっと背後にいた綾に二人は驚いて震えがどこかへ行ってしまった。
しかし震えていたのは目撃されていたのでどうやってごまかそうかと一人景勝が焦っていると、朔弥は至って落ち着いてうまく逃げたではないか。ある意味本当の話で言い得て妙とはこのことかと景勝は感心する。
深く追及することもなく、綾は上機嫌で部屋に戻ったのだろう。その後ろ姿からうかがえる機嫌は悪くない。

「朔弥」
「はい、兄上」
「すまない」
「…なにが、でしょうか」
「お前のように頭の回転が良ければ苦労を掛けないのだが」
「兄上、私は頭の回転などよくありません。口がうまいのです」
「…そうか」
「……時と場合に依りますけど」
「そうだな」

朔弥は一人で二人分笑ってみせた。


御題:休憩

/